高橋源一郎の飛ぶ教室 おススメの1冊 「すごい科学論文」を聞いて

2025年7月18日に放送されたラジオ番組 高橋源一郎の飛ぶ教室 おススメの1冊 「すごい科学論文」を聞きました。

『すごい科学論文』で紹介された生成AIについての内容は、科学論文の面白さと奥深さを、知的好奇心をくすぐる形で提示してくれています。

先天性視覚障害者が「透明」という視覚的表現を理解できるという事例は、言語と感覚、経験の関係について深い問いを投げかけています。

視覚を持たないにもかかわらず、彼らが「透きとおる海のような」というような比喩表現を理解できるのは、言葉の身体性、すなわち言葉が体験や身体感覚を通じて意味づけられているからだ、という指摘は重要です。

たとえば「肩透かし」「透かし彫り」などの言葉に何度も触れることで、抽象的な概念や感覚までもが理解されていく。

このプロセスは、「見る」という感覚に直接アクセスできなくても、社会的文脈や語用論的理解を通じて意味が構築されていくことを示しています。

この論文から導かれるもう一つの重要なテーマは、「生成AIが言語を理解しているのか?」という問いです。

身体を持たないAIは、人間のように感覚を経験しない。

しかし、人間の身体性や感情が刻まれた言語を学習することによって、結果的に人間の感性に訴えかける文章を生み出すことができる。

ここでの問いは鋭いものです。「人間が視覚を持たなくても“透明”を理解できるように、AIも身体がなくても“感性”を理解できるのでは?」という議論は、生成AIにおける“意味の理解”をめぐる哲学的・認知科学的な核心を突いています。

これは、単なる計算装置としてのAI像を超えた、新しい知性の可能性を示唆しています。

この本と番組を通して感じたのは、「科学論文」というものが、堅苦しく難解なものではなく、人間の根源的な問いや感性に直結するものであるという驚きです。

AIや障害者という一見「特殊」に思える存在を扱う論文が、実は私たち自身の言語観、世界観に揺さぶりをかけてくるのです。

また、「論文を趣味で読む」「年に5万本チェックする」という著者の姿勢からも、科学や知識への純粋な愛情が伝わってきて、知的な刺激を受けました。

科学は、単なる知識の蓄積ではなく、「人とは何か」「理解とは何か」という本質に迫る営みでもあるのだと、あらためて感じさせられました。