雪舟 《秋冬山水図・冬景》の魅力  テレビ番組「天才画家の肖像 雪舟 画聖と呼ばれた男」を見て

雪舟 《秋冬山水図・冬景》の魅力  2023年11月8日に放送されたテレビ番組「天才画家の肖像 雪舟 画聖と呼ばれた男」を見て

雪舟の《秋冬山水図・冬景》の最大の魅力は、写実的な風景描写と、抽象的な線と面による構成が、高度に融合している点にあります。

たとえば、中央にそびえる断崖の「真っ直ぐな線」は、現実の岩山としては異様に単純化されています。本来、自然界の岩肌は凹凸や曲線を含むものですが、雪舟はそれを 「力強い一本の線」 に還元している。

この大胆な単純化は、写実というより、むしろ心象風景や、自然の本質を抽象的に捉えたものと言えるでしょう。

さらに、遠景の山も「強い線」で描かれており、通常の遠近法であれば細く淡くなるべきところが、むしろ画面全体で一貫した「存在感」を放っています。

これは単なる景色の再現ではなく、山や自然そのものが持つ「気(エネルギー)」を描こうとした ためだと考えられます。

画面構成に目を向けると、太い垂直線と斜め線の交錯、濃い墨の塊が、視線を引きつけるように配置されています。

これは中国・南宋の伝統を踏まえつつ、雪舟独自の「荒々しさ」と「緊張感」を加えたものです。

近代以降の抽象画、例えばモンドリアンやカンディンスキーの絵画に通じる、線と面のリズム、緊張、解放といった「造形的な力学」に通じる構成です。

雪舟の作品を「古典水墨画」としてではなく、「視覚芸術の一形態」として見ると、実にモダンで前衛的な試みだと感じます。

さらに、表面的な構成美だけでなく、雪の降り積もった静寂、とぼとぼと歩く人の孤独、・断崖から伝わる冷たさや重みといった、感覚的な世界までも描いている ことが、この絵の奥深さです。

目に見えるものだけでなく、音や空気の冷たさ、空間の重さまで描き込んでいる。それこそが「画聖」と呼ばれる所以でしょう。

この絵を見て、単なる「風景画」という枠を超えて、「自然との対話」「心象風景の表現」を感じました。

とくに、断崖の一本線や濃い墨の塊には、人間の力では抗えない自然の圧倒的な存在感が宿っています。

同時に、人家やとぼとぼ歩く人物には、厳しい自然の中でも慎ましく生きる人間の営みが描かれ、孤独でありながら温かさも感じさせます。

また、雪舟の筆致は「即興的」で「自由」に見えるのに、実は長年の修練と理論に裏打ちされた、極めて計算された表現です。

この「自由」と「規律」のせめぎ合いこそが、雪舟芸術の本質だと思います。

現代の私たちが見ても、決して古びていない。むしろ、現代美術やデザインの視点で見てもなお新しい発見があります。