ラジオ深夜便 アート交遊録「太郎の目指した世界」(NHK)を見て

2025年6月26日に放送されたラジオ深夜便 アート交遊録「太郎の目指した世界」(NHK)を見ました。

この番組から見える岡本太郎像は、単なる芸術家の枠を超えた、文化の破壊者であり再生者、そして民俗と芸術の交差点に立つ“現代のシャーマン”としての姿です。

岡本太郎は、広告やテレビ番組などで「ピエロ」として振る舞い、マスメディアを通じて広く認知されました。

これは一見、美術界の伝統から逸脱するように見えますが、彼自身が意図的にその役割を演じることで、美術の敷居を下げ、一般の人々に美術への関心を引き寄せることを狙っていたと言えるでしょう。

美術を特権的な空間から解き放ち、「庶民のもの」とする挑戦です。

パリ滞在中にバルセロやモースと出会い、民俗学に強い影響を受けたことが、岡本の世界観を大きく方向づけました。

アカデミックな美術史ではなく、人類の根源的な“生”や“祈り”に通じる表現を求めていたのです。

その延長線上にあるのが、仮面・祭礼・呪術的なイメージを込めた作品群(例:太陽の塔)であり、彼の芸術観の本質です。

岡本太郎は絵画・彫刻・デザイン・写真・建築(壁画)と、あらゆるジャンルにまたがって活動しました。

彼にとって、ジャンルの枠は無意味であり、自己表現の手段として多様なメディアを選んでいたのです。

「職業は?」「人間だ」という言葉は、創造する者としての“本質”を象徴しています。

「伝統を守るというのはおかしい」「新しく捉え直さなければ意味がない」という考え方は、岡本太郎の強い批判精神を表しています。

これは単なる過去の否定ではなく、「伝統」とは、継承ではなく“再解釈”によって生命を持つものだという立場です。

「芸術家の本来の使命はシャーマン」という言葉が強く印象に残ります。

太郎は芸術を人間の深層心理や魂の叫びを代弁する行為と見ており、それは宗教的・呪術的な領域にも近い。

まさに、現代における祭祀者の役割を担っていたのです。

この番組を通して、岡本太郎の「破壊」と「再生」の精神にあらためて胸を打たれました。

彼の芸術は、単なる美の追求ではなく、生きることそのものへの問いかけであり、感覚と思想を同時に刺激する表現です。

とりわけ、「太陽の塔」に込められた呪術的な祈りや、世界中の仮面・民具に向けるまなざしから、岡本が追い求めたのは人間の根源、つまり“原始のエネルギー”そのものだったと感じます。