ラジオ番組 マイ!Biz「検証“高齢者を地方へ”」を聞いて

2025年5月3日に放送されたラジオ番組 マイ!Biz「検証“高齢者を地方へ”」(放送局:NHK)を聞きました。

 

 

この番組は、「高齢者を地方へ移住させる」という政策をめぐる問題点と、それに代わる現実的で人間的な高齢期の生活設計について深く考察した内容でした。

まず印象的だったのは、日本版CCRC(高齢者向けの継続ケア付コミュニティ)が「姥捨て山」と揶揄されるような形になってしまった現実への批判です。

高齢者の地方移住という発想が、地方の人口減少を補う「数合わせ」に使われた結果、本人の生活の質や地域とのつながりが軽視されたという点に、政策の本質的なズレを感じます。

 

また、孤立死の統計データは衝撃的で、特に男性の割合が女性の3.4倍という事実は、社会的なつながりの弱さや性別による違いを如実に表しています。

多くの男性高齢者が「職場以外のつながりを持ちづらい」「助けを求めるのが苦手」という特徴を持つとされており、これは高齢期の支援策において、単に制度的インフラを整えるだけでは足りないことを物語っています。

これは高齢者問題を考える上で、単なる「福祉」や「医療」だけでなく、「人とのつながり」という社会的側面がいかに重要かを物語っています。

 

「高齢者専用」ではなく「世代混在型」の住環境づくりが、真に豊かな高齢期の生活を支えるのではないか、という重要な視点が提示されています。

これは、福祉や介護を「分ける」のではなく、「混ぜる」ことによって支え合いを実現するというアプローチです。

バリアフリー化や訪問介護といったハード・サービスの整備はしつつも、住環境の「開かれた多世代性」が重要視されています。

 

 

若い人たちと一緒に暮らすことで生まれるのは、単なる物理的な共存ではなく、日常的な交流や見守り、自然な助け合いです。

たとえば、ゴミ出しや買い物のちょっとした手助け、孤独感の軽減、子育て世代との触れ合いによる生きがいや役割感の回復、こうしたものは、いくら手厚い介護サービスがあっても、得られない「心の充足」につながります。

つまり、人間関係こそが最大の福祉なのです。

このような世代混在型の住まいの形は、古い賃貸マンションや団地の再活用とも親和性があります。

現代都市では、築年数の経った団地やマンションの空室化が進んでおり、高齢者の居住ニーズと若年層の住居不足を同時に解決できる可能性があります。

また、バリアフリー化された共用部分を備えることで、ベビーカーの使用や足腰の弱い人の移動も楽になるなど、あらゆる世代にとって住みやすい環境が整っていきます。

 

「ハッピー・リタイアメント・ライフ」という言葉は、経済的な豊かさだけではなく、精神的・社会的な充足に満ちた老後を意味しています。

人と人が関わり、役割を持ち続けられること、そして社会の一部として尊重されることが、その鍵です。

誰かの助けを受ける存在になることを引け目に感じず、互いに支え合える場に身を置けることなのです。

この提案は、「高齢者=弱者・孤立しがち」という一面的な見方を乗り越え、高齢者を地域社会の一員として尊重する街づくりを促すものです。

世代を超えて共に生きる空間は、老若問わず「豊かに生きる力」を育てる土壌となり得るのです。

移住は終末期の選択肢ではなく、新しい生き方のスタートとして設計されるべきだ、ということです。

 

 

最後に述べられているように、移住のタイミングも「元気なうち」が望ましいという指摘は、高齢期に備える“予防的なライフデザイン”の重要性を教えてくれます。

 

この番組は、少子高齢化が進む中での“高齢者政策”を、単なる数値や制度論にとどまらず、「人間らしい老い」や「つながりのある暮らし」という観点から考えさせる、非常に示唆に富む内容でした。