製材所は森と暮らしをつなぐ要 ― 大量規格化の陰で問われる木の多様性と人材の未来
2026年1月13日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz「どうなる製材所 生き残りをかけて」赤堀楠雄(林材ジャーナリスト)(NHK) を聞きました。

1.製材所減少の本質的な意味 ―「中間工程」の弱体化
番組が示した最も重要なポイントは、製材所の減少が単なる一業種の衰退ではなく、森林資源利用の“中核工程”が痩せ細っている現象だという点です。
林業はしばしば「伐る人(山)」と「使う人(建築・消費)」に注目が集まりますが、その間にある製材という高度に専門的な工程がなければ、山の木は社会の資源になりません。
丸太はそのままではほとんど利用できず、木の性質を見極め、反り・割れ・強度を考慮しながら加工する製材技術こそが、木を「材料」から「価値」へと変換しています。
工場数が1960〜70年代の約2万5千から、2024年に約3千へと激減したという数字は、この変換装置が社会から急速に失われていることを意味しています。
2.大量規格化と「木の個性の不可視化」
大型製材所の増加は効率化の成果であり、住宅需要を支えてきた功績も否定できません。
しかし番組が指摘するように、その一方で、
・木目や色味が重視されない
・樹種の違いが考慮されない
・規格寸法が最優先される
という流れが定着しました。
これは木材を「自然素材」ではなく「工業部材」として扱う視点の固定化でもあります。その結果、「どの木にもニーズがある」という事実が社会から見えなくなり、製材所が本来持っていた目利きと提案力が評価されにくくなったのです。
番組で紹介された、100種類以上の樹種を扱い、木象嵌など創作分野に木を供給する製材所の事例は、木の多様性が価値に転換される瞬間を鮮やかに示していました。
これは単なるニッチ市場ではなく、大量生産とは異なる価値軸の提示と言えます。
3.「知ってもらう」ことで生まれる需要 ― 吉野の取り組みの意義
奈良・吉野の林業ツアーの事例は、とても示唆的です。
ここで行われているのは単なる見学ではなく、
・木が育つ時間
・製材加工の意味
・設計図に合わせて木を選ぶ体験
という「木材の物語」を共有するプロセスです。
特に重要なのは、小学生を含む一般の参加者が、消費者になる前の段階で木材の背景を知る点です。
その結果、「なんとなく国産材」ではなく、「吉野杉を使いたい」という意思を伴った需要が生まれている。
これは、製材所が単なる加工業ではなく、教育・文化・地域ブランドの拠点になりうることを示しています。
非常に前向きで、再現性のある取り組みだと感じます。

4.人材問題に真正面から向き合う姿勢の評価
番組後半で紹介された製材所の人材育成の取り組みは、業界全体にとって希望の兆しです。
・昇給基準の明確化
・スキルマップによる技能の可視化
・キャリアアップの道筋提示
・マニュアル整備による属人化の解消
・個人面談による対話
・高校への地道な広報活動
これらは「人が来ない業界だから仕方ない」という諦めを捨て、製材を「選ばれる仕事」にしようとする意志の表れです。
製材は確かに地味で、一般には見えにくい仕事です。しかし、だからこそ専門性・技能・誇りを言語化する努力が重要であり、この事例はその好例だと感じました。
5.肯定的な総評と感想
この放送は、製材所の厳しい現状を伝えながらも、決して悲観論に終始していません。
むしろ、
・木の多様性という強み
・地域に根ざす小規模製材所の可能性
・人材育成と可視化の工夫
・教育・体験を通じた需要創出
といった「再生の芽」を丁寧に拾い上げています。
特に印象的だったのは、「製材がなければ山の木は使えない」という当たり前の事実を、改めて社会に問い直している点です。
製材所は裏方ではなく、自然と暮らしをつなぐ要(かなめ)です。
行政や業界団体が、この番組で示されたような現場の知恵を政策として後押しできるかどうか。
そこに、日本の林業・木材利用の未来がかかっていると強く感じました。
