賃上げ・財政・米政権の行方から読む2026年日本経済――転換点に立つ成長と安定のバランス
2026年1月12日に放送されたラジオ番組『マイあさ!』マイ!Biz「2026年 日本経済を見る3つのポイント」永濱利廣(第一生命経済研究所首席エコノミスト)(NHK) を聞きました。

1.賃上げと金融政策――「転換点」に立つ日本経済の現実的な見取り図
永濱氏の指摘で最も重要なのは、賃上げを「一過性の現象」ではなく、金融政策を動かし得る構造変化として捉えている点です。
春闘の賃上げ率が、2024年の33年ぶり高水準に「近い水準」を維持する可能性があるという見方は、日本経済が長年抱えてきた「賃金が上がらない体質」から、ようやく脱却しつつあることを示唆しています。
特に注目すべきなのは、
・物価高への防衛的対応
・企業業績の底堅さ
・深刻な人手不足
という三つの要因が重なって賃上げを後押ししているという分析です。
これは、景気が良いから賃金が上がるのではなく、人材確保という構造的制約が企業行動を変えていることを意味します。
ここに、日本経済の「質的変化」があります。
また、実質賃金がプラスに転じ、物価と賃金の好循環が確認されれば、日銀が中立金利(1%以上)を視野に利上げを進める可能性があるという見立ても、非常に現実的です。
利上げによる過熱抑制と、企業の資金調達コスト上昇とのバランスを「非常に重要」と慎重に語っている点に、金融政策を万能薬としない冷静さが感じられます。
評価すると、楽観でも悲観でもなく、「今は判断を誤ると長期停滞に逆戻りする分岐点だ」という、成熟した経済観が示されていると言えるでしょう。
2. 総合経済対策――「ばらまき」と「規律」の間での現実的選択
二つ目のポイントで評価すべきなのは、25年度補正予算を単なる物価高対策としてではなく、財政全体のバランスの中で見ている点です。
21兆円規模という数字だけを見ると拡張的に映りますが、
・家計への直接支援
・自治体裁量の交付金
・年収の壁の見直し
といった即効性のある対策と同時に、
・経済安全保障
・食料・医療体制
・人への投資
といった中長期的な成長分野への支出が並行して盛り込まれていることが指摘されています。
これは、「今を守る政策」と「将来をつくる政策」を同時に進めようとする姿勢です。
さらに重要なのは、防衛費のGDP比2%達成を前倒ししつつ国債増発を前年より抑えプライマリーバランス黒字化の見通しを維持している点を、永濱氏が「最低限の財政規律は守られている」と評価していることです。
財政出動と規律を二項対立で捉えず、現実的な折衷点を探っているという見方は、非常に説得力があります。
一方で、人手不足による政策実行の遅れや、最低賃金上昇の鈍化といった「影」の部分にも目を向けており、政策の設計だけでなく、実行力まで含めて評価している点がこの解説の深みです。

3. トランプ政権と世界経済――外部環境を「日本の条件」として読む視点
三つ目のトランプ政権分析は、日本経済を語りながらも、世界の金利・資源・地政学リスクを同時に視野に入れる構成になっています。
注目点は、原油価格が安定すれば、アメリカのインフレが沈静化し、FRBの利下げが進み金利が中立水準(3%前後)に近づくという連鎖的な見通しです。
これは、アメリカ経済の行方が日本の金融政策や為替、企業収益に直接影響するという現実を、極めて分かりやすく示しています。
さらに、法人減税や中間選挙を見据えた景気下支え策が取られる可能性に言及している点からは、政治と経済を切り離さずに読む姿勢が明確です。
同時に、西側諸国と権威主義国家の対立激化という地政学リスクにも触れ、楽観に流れないバランス感覚が保たれています。
4. 感想
この解説全体を通して感じるのは、「日本経済は良くなりつつあるが、決して安泰ではない」という、非常に誠実なメッセージです。
賃上げ、財政、国際環境という三つの軸はいずれも、単独では解決策にならず、相互に影響し合い、判断を誤れば副作用も生むという難しさを抱えています。
永濱氏の分析は、その複雑さを単純化せず、聞き手に「考える余地」を残している点で非常に質が高いと感じました。
短期的な希望を与えつつ、構造的課題から目を逸らさない――この姿勢こそが、2026年という転換期の日本経済を考える上で、最も信頼できる羅針盤になっていると言えるでしょう。

