中国EV急成長の陰で露呈した安全性の課題――先進デザインから原点回帰へ向かう転換点

2026年1月12日に放送されたラジオ番組『マイあさ!』ワールドリポート「中国製EVに浮上した新たな課題」下村直人(中国総局)を聞きました。

1.踏み込んだ分析――「先進性」が「危うさ」に転じた瞬間
このワールドリポートの核心は、中国EV産業が「成功の論理そのものによって、新たなリスクを生み出した*点を、具体的事例で浮かび上がらせているところにあります。

中国のEVは、
・新エネルギー車比率が新車販売の5割超
・デザイン性・デジタル化・価格競争力で急速に普及
という、世界的に見ても突出した発展段階にあります。
しかしその成功を支えた要素――「未来感」「シンプル」「物理部品の排除」――が、事故の現場では逆に弱点として露呈しました。

2. 格納式ドアハンドルの象徴性
格納式ドアハンドルは、空力性能や近未来的イメージを象徴する装置です。しかし、
・衝突による電源遮断
・火災という極限状況
では、「電気があること」が前提のデザインは無力になります。
ここで問題なのは単なる設計ミスではなく、「非常時はアナログが命を救う」という原則が、十分に織り込まれていなかったことです。

3. スクリーン一体型操作の落とし穴
ダッシュボードをスクリーンだけにする設計も、
・コスト削減
・OTA(ソフト更新)
・スマート化
という合理性の帰結です。

しかし走行中の操作では、
・視線移動
・操作階層の深さ
が、事故リスクを高めます。ここでも「便利さ」と「安全性」の緊張関係が露呈しています。

4. EV特有の性能が生む新リスク
EVの高加速性能や運転支援システムも、「性能向上=安全向上」ではないことを示しています。
・瞬時の回す力
・人間の判断を超える反応速度
・過信を誘発する支援システム
これらが重なったとき、技術が人間の限界を試してしまう構図が生まれています。

5. 肯定的な批評――「失敗から学ぶ速度」こそ中国EVの強さ
このリポートが非常にフェアで優れている点は、中国EVを単に「危険」「未熟」と断じていないことです。

むしろ注目すべきは、
・格納式ドアハンドルの廃止
・物理スイッチの復活
・安全性を前面に出したマーケティング
・4.5ヘクタール・300m走路・440億円投資の安全試験施設公開
といった、軌道修正の速さと規模です。

これは、「市場が成熟段階に入り、量から質へ移行し始めた兆候」と読むことができます。
とりわけ、安全試験センターを報道陣に公開した点は、
・消費者へのメッセージ
・規制当局への応答
・国際競争を見据えた信頼構築
という三重の意味を持ち、中国EV産業が“次のフェーズ”に入ったことを象徴しています。

6. 感想――「原点回帰」は後退ではなく、成熟の証
この放送を聞いて強く感じたのは、安全性への原点回帰は、技術の後退ではなく文明の成熟だという点です。
デザイン、デジタル化、スピード、価格――それらは確かに市場を一気に押し広げました。
しかし命を預かる製品である以上、「最後に立ち返る基準は、必ず人間の身体と感覚」なのだという事実が、事故という形で突きつけられました。

そしてこの文脈で示される「日本メーカーが得意としてきた安全性」は、決して過去の遺産ではなく、次の競争軸になり得ます。
同時に、日本メーカーにとっても、
・速度
・コスト
・デジタル対応
をどう統合するかが問われており、この問題は「中国の話」で終わらない、世界共通の課題だと感じました。

総括的に言えばこのワールドリポートは、EVという新しい文明が、いま「人間に合わせ直す局面」に入ったことを、具体例と冷静な視点で描いた秀逸な報告だったと思います。
単なる事故報道ではなく、技術・市場・倫理・国際競争が交差する地点を示した点で、非常に示唆に富む内容でした。