世界に広がるポーランドの抹茶ブーム――日本文化の受容と生産現場が映し出す光と影

2026年1月8日に放送された番組「ラジオ深夜便」ワールドネットワーク「ポーランドの抹茶ブーム」岡崎恒夫(ワルシャワ大学講師)(NHK) を聞きました。

1.文化的観点からの分析
この番組が興味深いのは、抹茶が「日本文化そのもの」ではなく、「受容されやすい形に変容した日本文化」としてポーランド社会に根づいている点を丁寧に描いているところです。
茶道のような精神性の高い文化は、いきなり海外で広く理解されるものではありません。
しかし、抹茶ラテや抹茶ティラミス、抹茶アイスといった形であれば、味覚を通して抵抗なく受け入れられる。これは文化の「浅薄化」ではなく、異文化が異文化として生き延びるための自然な翻訳だと評価できます。
また、2010年頃からの寿司ブームとの連続性に触れている点も重要です。
寿司→緑茶→抹茶という流れは、日本食文化が段階的にポーランド社会の生活習慣に浸透してきた歴史を示しており、抹茶ブームが決して突発的な流行ではないことを裏付けています。

2.経済・生産構造の観点からの分析
番組は、ブームの華やかさだけでなく、日本側が抱える構造的な問題にも光を当てています。
抹茶が大量生産に向かないこと、生産者の高齢化、後継者不足、重労働、そして海外バイヤーによる買い占め——これらは、日本の農業全体が抱える課題の縮図でもあります。
特に印象的なのは、世界的評価の高まりが、必ずしも国内の幸福につながっていないという逆説です。
海外での需要増によって価格が高騰し、日本国内や現地の日本人にとって抹茶が「買いにくいもの」になっているという指摘は、グローバル化の光と影を非常にわかりやすく示しています。
これは単なる食文化の話にとどまらず、国際市場とローカル文化の緊張関係を考えさせる内容です。

3.メディア・インターネットの影響の分析
抹茶ブームがインターネットによって爆発的に広がったという指摘も、現代的で説得力があります。
SNSや動画サイトを通じて、「健康」「美」「日本的」というイメージが短時間で共有され、消費行動へ直結する。
この構造は、寿司ブームの時代よりもはるかに加速しています。
その一方で、番組は「ブームが落ち着いた後」に目を向けている点が秀逸です。一過性の流行で終わるのか、それとも本格的な抹茶や茶の湯へ関心が深化していくのか——この問いかけは、文化の成熟に対する静かな期待を含んでいます。

4. 感想
この番組の最大の魅力は、抹茶を「異国で流行する日本的おしゃれ飲料」として消費するだけで終わらせていない点にあります。
ポーランド社会での受容のされ方、日本国内の生産現場の苦悩、インターネット時代の文化拡散、そして未来への可能性——それらを短い放送時間の中でバランスよく提示しており、非常に知的で誠実な構成だと感じました。

特に最後の、「このブームが落ち着いたら、本格的な抹茶、茶の湯を楽しむ人が増えるかもしれない」という言葉は希望に満ちています。
これは楽観ではなく、文化はまず入口から広がり、時間をかけて深まるものだという冷静な理解に基づく期待でしょう。

抹茶ブームは、日本文化が世界で評価されている証であると同時に、日本自身がその価値をどう守り、次世代につないでいくかを問い返す鏡でもあります。
その両義性を静かに伝えてくれた点で、この放送はとても意義深く、聴き手に長く余韻を残す内容だったと思います。