台湾に学ぶ半導体人材戦略――設備より「人」を重視する産学連携と日本人留学生が示す未来の可能性

2026年1月7日に放送されたラジオ番組『マイあさ!』ワールドリポート「台湾で半導体を学ぶ日本人学生」松田智樹(台北支局長)(NHK) を聞きました。

1.内容の核心的分析(何が語られていたのか)
このワールドリポートの核心は、「半導体競争の本質は“設備”ではなく“人”である」という一点に集約されます。
日本でも熊本や北海道で半導体工場の建設が進んでいますが、番組はそこで安易に「復活」や「期待」を語るのではなく、人材不足という構造的課題に焦点を当てています。
この視点は非常に重要です。
台湾はすでに世界最大の半導体製造拠点でありながら、現状に安住せず、
・世界中から若者を招く
・学費全額免除+生活費支給という破格の支援
・中国語・英語での専門教育
・工場実習と直結したカリキュラム
という、国家・大学・企業が一体となった長期的な人材投資を行っています。
特に印象的なのは、「工場長になりたい」と語る日本人留学生の存在です。
これは単なる留学体験ではなく、将来の産業リーダーを育てる現場であることを象徴しています。

2.台湾モデルの強さの本質
番組が浮き彫りにした台湾の強さは、次の三点に整理できます。
① 人材育成を「コスト」ではなく「投資」と考えている
4年かかることを前提に、時間も資金も惜しまない姿勢は、短期成果を求めがちな国・企業とは対照的です。
② 大学段階から即戦力を育てる設計
日本では「入社してから育てる」文化が根強いのに対し、台湾では、
・大学・大学院で高度な専門性を獲得・
・クリーンルームや実装設備を24時間使える環境
研究と現場が直結
という、教育と産業の境界が極めて低い仕組みが確立しています。
③ 人材 → 技術 → 起業 → 産業成長の好循環
大学発スタートアップが世界的メーカーに成長する循環が繰り返され、それがさらに次世代の人材を呼び込む――この自己強化型のエコシステムこそが台湾半導体産業の底力です。

3.感想
このリポートの優れている点は、次の点にあります。
・技術論や地政学に偏らず、「人づくり」という地道だが本質的なテーマを正面から扱ったこと
・日本人留学生の具体的な声を通して、抽象論を現実の物語に落とし込んだこと
・「工場を建てただけでは意味がない」という厳しい現実を、感情的にならず冷静に提示したこと
特に、「一朝一夕に人材は育たない」という言葉は、今の日本社会全体にも突き刺さる指摘です。
即効性を求める風潮への静かな警鐘として、非常に説得力があります。

この報告を聞いて強く感じるのは、半導体の問題は、実は“教育観・人間観”の問題でもあるということです。
台湾は、人を育てない限り、技術は生まれないという考えを、理念ではなく制度と予算と現場で体現しています。
それに対し日本は、設備投資や誘致策には熱心でも、人材育成を「後追い」にしてきた面は否定できません。
だからこそ、台湾から学ぶべきなのは単なるノウハウではなく、
・長期的視点
・若者への信頼
・大学を知の中心として尊重する姿勢
です。

日台が人材育成で連携を深めることは、日本にとって「遅れを取り戻す」ためだけでなく、次の世代の技術と産業を共につくる希望の回路にもなり得ます。

この番組は、その可能性を静かに、しかし力強く示してくれた、非常に示唆に富むリポートだったと言えるでしょう。