不確実性の時代に問われるエネルギー安全保障――原油価格、電力需要、脱炭素の現実と課題
2026年1月6日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」けさの“聞きたい「どうなる?2026年のエネルギー情勢」小山堅(日本エネルギー経済研究所主席研究員)(NHK)を聞きました。

1. 原油市場の見通し――「楽観も悲観もしない」冷静な視点
小山堅氏の発言でまず印象的なのは、原油価格について単線的な予測を避けている点です。
需要は増えるが伸びは緩やか、供給増の方が大きいため平均価格は下がる見込み──しかし同時に「情勢次第で大きく動く」「不確実性は続く」と繰り返し強調されています。
これは、エネルギー問題を「価格予測ゲーム」に矮小化せず、
・地政学
・産油国の内政(ベネズエラなど)
・国際関係の緊張
といった複合要因が常に市場を揺さぶる現実を、リスナーに冷静に伝える姿勢だと言えます。
「油断は全然できない」という言葉は、専門家としての慎重さと責任感を端的に表しています。
2. エネルギー安全保障の重心が「電力」に移っているという指摘
従来、エネルギー安全保障=石油・ガスというイメージが強くありましたが、小山氏は「今後の中心課題は電力の安定供給だ」と明確に軸足を移しています。
特に重要なのは、人口減少社会の日本でもAI普及とデータセンター増設によって電力需要は長期的に増えるという点です。
これは「日本はもう電力需要が増えない」という長年の前提を静かに覆す指摘であり、非常に示唆的です。
さらに、
・安定的に
・手頃な価格で
・脱炭素電源によって
供給する必要があると述べており、経済性・安定性・環境性の三立という現実的な課題設定がなされています。
3. クリーンエネルギーの「新しい弱点」への目配り
再生可能エネルギーや脱炭素は「理想的で善なるもの」と語られがちですが、小山氏はそこで立ち止まり、
・レアアース
・重要鉱物
・中国への依存度の高さ
という新たな安全保障リスクを正面から指摘しています。
ここが非常に重要なのは、
クリーンエネルギー=安全という単純図式を否定し、サプライチェーン全体を見なければ本当の安全保障にはならないと示している点です。
「具体的な対応策をどうするかが大きな検討課題」という言い方も、危機を煽るのではなく、政策と戦略の問題として冷静に位置づけているのが印象的です。

4. 脱炭素目標と現実の「ギャップ」を直視する姿勢
COP30を念頭に、各国の排出計画を合算しても1.5度目標には到底届かないという指摘は、非常に率直で厳しい現実認識です。
それでも小山氏は、
・脱炭素を否定する
・気候変動対策を諦める
という方向には進まず、暮らしや経済の現実を無視できないと述べています。
ここには、「理想を掲げること」と「社会を維持すること」を対立させず、両立の困難さを引き受けた上で考える姿勢があります。
5.感想
この解説の最大の長所は、一貫して現実主義でありながら、視野が狭くないことです。
・楽観に流れない
・かといって悲観論にも陥らない
・技術・経済・地政学・生活実感を同時に見ている
・専門家としての成熟したバランス感覚が随所に表れています。
また、「不確実性」「ギャップ」「検討課題」といった言葉の選び方からは、断定を避け、考える余地をリスナーに残す誠実さが感じられます。
この話を聞いて強く感じたのは、エネルギー問題はもはや専門家や政策担当者だけの話ではないということです。
電気料金、AI、データセンター、気候変動、国際情勢──私たちの日常と直結した問題が、複雑に絡み合っていることを、静かに、しかし確実に理解させてくれる内容でした。
特に印象深いのは、「理想を掲げつつ、現実から目を背けない」という姿勢です。
これはエネルギー政策に限らず、現代社会全体に必要な態度だと感じました。
短いラジオ解説でありながら、考えるための地図を与えてくれる、非常に密度の高い内容だったと思います。
