世界で評価される日本の創造力と、失敗を許容する社会が切り拓くコンテンツ産業の未来

2025年12月26日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz・経済展望「コンテンツ産業の将来性」栗原聡(慶應義塾大学理工学部教授)を聞きました。

1.「コンテンツ産業の将来性」―成長の現実と、日本社会が直面する本質的課題
栗原聡氏の話は、日本のコンテンツ産業がすでに「世界で評価されている段階」にあることを、具体的な数字と事例によって明確に示していました。
とりわけ、日本のアニメや漫画を中心とするコンテンツ産業が、この10年で海外売上を約3倍に伸ばしたという事実は、日本の創造力が決して内向きではなく、グローバル市場において十分な競争力を持っていることを裏付けています。
ハリウッドで日本の漫画原作が映画化されることが「珍しくなくなった」という指摘は、日本文化が“消費される異文化”から、“世界標準の物語資源”へと変化していることを象徴しているように思えます。

しかし同時に、栗原氏の議論は、この成功が「一部の成功したクリエイター」に集中しているという、産業構造上の歪みを鋭く突いています。
ブランドを確立したクリエイターは世界で評価され、富も集まる一方で、これから花開くはずの若手が、労働環境の厳しさや収入の不安定さの中で埋もれてしまう。
この構図は、日本のコンテンツ産業が「才能はあるが、育成の回路が細い」状態にあることを示しています。

2.政府の役割――量産ではなく「土壌づくり」へ
政府が2033年までにコンテンツ産業を20兆円規模に拡大するという目標を掲げている点について、栗原氏はきわめて現実的な視点を提示しています。
単なる海外向けPRや補助金のばらまきではなく、「国内基盤で、若手が次々に挑戦できる環境」を整えることこそが本質だ、という指摘です。

ここで重要なのは、「良いものを作る力」はすでに日本にある、という前提に立っている点です。
問題は質ではなく“数”であり、その数を生み出すには、若手がすぐに現場に入り、経験を積み、失敗できる環境が必要だという主張は、非常に説得力があります。
投資の回収を短期で求めない姿勢、そして「成功が保証されない創造性」に対する社会的理解は、コンテンツ産業だけでなく、日本全体のイノベーション政策にも通じる重要な示唆だと感じました。

3.「失敗を許容する社会」への問いかけ
栗原氏の議論で特に印象的なのは、「失敗することも重要」という一言です。創造性は直線的に成果が出るものではなく、どこで何が当たるかは誰にも予測できない。
だからこそ、失敗したあとに「次、頑張ろう」と言える社会が必要だという指摘は、現在の日本社会の空気を鋭く照らし出しています。

今の日本が「チャレンジしにくい社会」になっているという言葉は、若手クリエイターだけでなく、研究者や起業家、さらには一般の働き手にも共通する実感ではないでしょうか。
結果を急ぎ、失敗に厳しい社会では、創造性は萎縮し、結局は大きな成功も生まれにくくなります。
栗原氏の提案は、単なる産業政策ではなく、「社会の価値観の転換」を促すものだと感じました。

4. AIと創造性――主役はあくまで人間
AIについての議論も、極端な楽観論や悲観論に陥らず、非常にバランスが取れています。AIはクリエイターを置き換える存在ではなく、あくまでサポートツールであり、最終的に重要なのは人間自身の創造力だという指摘は、冷静でありながら希望があります。
「AIが勝手に人間のレベルを超えて創造するわけではない」という言葉は、AI時代における人間の役割を正確に言い当てています。

また、イノベーション力は日常生活の中で培われる好奇心や、多様な人との対話、共感力によって支えられるという視点は、技術論にとどまらず、人間観・社会観にまで話が及んでいる点で非常に深いものがあります。
AIを使いこなす力とは、単なる操作スキルではなく、「人間としてどれだけ豊かな経験をしているか」に依存するという考え方は、多くの人に勇気と責任を同時に与えるものです。

5. 総合的な感想――コンテンツ産業論を超えた「社会への提言」
この放送を通じて感じたのは、栗原聡氏の話が「コンテンツ産業の将来性」というテーマを超えて、日本社会全体のあり方を問う内容になっていたということです。
誰でもチャレンジでき、失敗しても次がある社会。結果を急がず、長い目で人を育てる社会。AIを恐れず、まず使ってみる社会。
そのどれもが、今の日本に欠けがちな要素であり、同時に、取り戻すことができれば大きな力になる価値観です。

日本のコンテンツ産業には、世界を驚かせる潜在力がある。
その力を本当に開花させるためには、技術や資金だけでなく、「失敗を抱きしめる社会の成熟」が必要なのだ――この番組は、そのことを静かに、しかし力強く教えてくれたように思います。