「観光以上 定住未満 人生100年時代の生き方とは」中川治輝(首都圏局ディレクター) ラジオ番組「マイあさ!」”けさの“聞きたい” (NHK) を聞いて

2025年12月24日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」”けさの“聞きたい”「観光以上 定住未満 人生100年時代の生き方とは」中川治輝(首都圏局ディレクター)を聞きました。

1.「観光以上・定住未満」という新しい中間領域の意義
この番組が提示している最大の価値は、「観光」と「移住」という二項対立を超えた第三の関わり方を、具体的な実践例を通して描いている点にあります。
従来、地方との関係は「短期消費としての観光」か、「生活の拠点を移す移住」かのどちらかで語られがちでした。
しかし多くの人にとって移住は心理的・経済的ハードルが高く、結果として「関心はあるが関われない」状態が続いてきました。

「お手つ旅」や「旅バイト」は、その空白を埋める存在です。
短期間でも地域の生活リズムの中に身を置き、役割を担うことで、単なる来訪者ではなく「一時的な住民」「顔の見える協力者」になる。
ここに「観光以上」と言える深さがあります。同時に、生活基盤をすべて移すわけではないため、「定住未満」という現実的な距離感も保たれています。
この“中間領域”こそが、現代日本において極めて重要な社会的実験だと感じます。

2.中高年・シニア層が主役になっている点の説得力
特に印象的なのは、50歳以上の参加者が約3割に達し、しかもこの4年で3倍以上に増えているという事実です。
これは単なる労働力不足対策ではなく、人生後半の時間の使い方そのものが変わり始めていることを示しています。

番組内で語られる「目配り・気配り・心配り」「明るく丁寧な接客」「即戦力」という評価は、シニア世代の価値を真正面から肯定しています。
ここには、「高齢=支えられる側」という固定観念を崩し、経験や人間力がそのまま地域資源になるという力強いメッセージがあります。

さらに、厚生年金への加入や、月25万円前後の収入といった具体的な数字が示されることで、「生きがい」や「やりがい」だけでなく、老後の現実的な安心とも結びついている点が非常に現実的です。
報酬・観光・老後の備えという「一石三鳥」という表現は、決して誇張ではなく、多面的な価値を端的に表しています。

3.課題提示の誠実さが、全体の信頼性を高めている
この番組の評価すべき点は、メリットだけでなく、リスクや注意点を丁寧に伝えていることです。
寮の環境、立ち仕事の負担、サービス残業の問題、募集内容と実態のズレ——これらをきちんと列挙し、「事前確認の重要性」を強調している点に、公共放送らしい誠実さを感じます。
これは「夢のような地方暮らし」を安易に煽るのではなく、主体的に選び、納得して関わることの大切さを伝えており、結果として参加者の満足度や持続性を高めることにつながるでしょう。

4.「関係人口」という概念がもつ未来性
最後に語られる「関係人口」は、この番組全体を貫くキーワードです。
定住しなくても、何度も訪れ、顔見知りができ、役割を持つ。そうした人々が増えることで、地域は「消費される場所」から「共に時間を積み重ねる場所」へと変わっていきます。
特に、都市部に住み続けながら休日や一定期間を地方で過ごすというモデルは、人生100年時代において極めて現実的です。
フルリタイアかフル就労か、都市か地方か、という二択ではなく、複数の居場所と複数の役割を持つ生き方が、静かに、しかし確実に広がっていることを実感させます。

5.感想
この放送は、「長く生きること」を不安としてではなく、可能性として捉え直す視点を与えてくれました。
人生後半において、人はまだ「役に立てる」「必要とされる」「新しい人と出会える」。
しかもそれは無理のない距離感で実現できる——そのことを、具体的な声と数字で示した点に大きな価値があります。

「観光以上・定住未満」という言葉は、単なるキャッチコピーではなく、これからの日本社会が必要とする柔らかく、しなやかな生き方の名称なのだと感じました。
聴き手に「自分にもできるかもしれない」と静かに背中を押す、非常に良質な番組内容だったと思います。