「高齢者の金融所得と医療保険料」是枝俊悟(大和総研主任研究員) ラジオ番組「マイあさ!」けさの“聞きたい” (NHK) を聞いて

2025年12月22日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」けさの“聞きたい” 「高齢者の金融所得と医療保険料」是枝俊悟(大和総研主任研究員)を聞きました。 

1.後期高齢者医療制度の保険料決定の仕組みの整理と評価
是枝俊悟氏の解説は、後期高齢者医療制度の保険料が
・均等割(同じ額)
・所得割(個人の所得に応じた額)
という二本立てで決まっている点を、非常に分かりやすく説明しています。
75歳以上という年齢で一律に扱われる制度でありながら、完全な定額制ではなく、所得に応じた負担を組み込んでいる点は、日本の社会保障制度が「応能負担」を重視してきた姿勢をよく表しています。
また、年金・給与・自営業所得など、すでに行政が把握できている所得情報を基に保険料を決めているという点も、制度としての合理性と透明性を示しています。

2.「金融所得をどう扱うか」という問題の核心
今回のテーマの核心は、金融所得(株式売却益、配当、投資信託の分配金など)を保険料にどう反映させるかという点にあります。
是枝氏が指摘する重要点は次の3つです。
・金融所得はすでに税務署には把握されている
・しかし、その情報が市区町村に自動的に渡る仕組みがない
・確定申告をした人だけが、結果的に保険料に反映される

ここには、制度設計上の「ねじれ」があります。
本来は同じ金融所得を得ていても、
・確定申告をした人 → 保険料に反映される
・確定申告をしない人 → 反映されない
という不公平が生じているからです。
この点を正面から問題提起していること自体が、非常に誠実で現実的な政策分析だと感じます。

3.NISAを除外している点の意味
NISAによる非課税運用が保険料の算定対象にもならないという説明も重要です。
これは単なる「高齢者優遇」ではなく、
・長期投資を促す
・資産形成を後押しする
という政策目的との整合性を保つための措置です。
「税をかけない代わりに保険料を上げる」という二重の負担を避けている点は、制度として一貫性があります。

4.2030年頃までかかる理由の現実性
是枝氏が繰り返し強調しているのが、
・法改正が前提であること
・市区町村ごとの仕組みを全国で統一する必要があること
・前年所得を基に翌年保険料を決める「1年遅れ」の構造
です。
ここには、「なぜすぐにできないのか」という問いに対する、行政の現実を踏まえた説明があります。
理想論ではなく、「制度を全国で公平に運用するには時間がかかる」という冷静な視点は、政策議論に不可欠です。

5.利子所得が把握できない問題
利子については、
・金融機関 → 税務署への報告制度がない
・そのため市区町村も把握できない
という構造的な限界が示されています。
ここから見えてくるのは、日本の税・社会保険制度が、まだ十分にデジタル連携されていないという現状です。
これは高齢者医療に限らず、今後の社会保障全体に共通する課題と言えるでしょう。

6.他制度(会社員の健保・国保)との対比の巧みさ
勤め先の健康保険では、金融所得が関与しない一方、国民健康保険では、確定申告をすれば保険料に反映される。
この対比は、
・働き方
・所属する保険制度
によって負担の仕組みが大きく異なることを、非常に明確に示しています。
制度の違いを感情論ではなく、構造の違いとして説明している点が、この解説の大きな長所です。

7.感想
この放送の最大の価値は、「高齢者の医療費負担をどう公平に分かち合うか」という難題を、感情に流されず、制度の仕組みとして丁寧に解きほぐしている点にあります。
「高齢者優遇か、不公平か」という単純な二項対立ではなく、
・なぜ今は反映されていないのか
・どこに制度的な壁があるのか
・何が変わり、何は変わらないのか
を冷静に示しており、聴く側に考える材料を与える解説でした。
特に印象的なのは、「確定申告をした人だけが結果的に不利になる」という現行制度の歪みを、責める調子ではなく、仕組みの問題として説明している姿勢です。
これは、政策議論において非常に重要な態度だと感じます。
高齢化が進み、金融資産を持つ高齢者と持たない高齢者の差が広がる中で、医療保険制度をどう持続可能に、かつ公平に設計し直すかという問いは避けて通れません。
今回の解説は、その出発点として、非常に知的で誠実な問題提起だったと言えるでしょう。