《高市政権下で加速する日印関係と日本経済の戦略転換を読む》近藤正規(国際基督教大学上級准教授) 【ラジオ番組「マイあさ!」 (NHK) を聞いて】

2025年12月18日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz「高市政権と日印関係ゆくえ」 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)を聞きました。

1.論点の核心──「中国リスク」から「インド機会」へ
近藤正規氏の話の軸は、単なる「日中関係悪化の代替先としてのインド」ではありません。
むしろ本質は、中国一極集中からの構造転換という、日本経済と外交が避けて通れない長期課題にあります。
日中関係の冷え込みは、短期的には不安材料ですが、同時に企業行動を変える「圧力」として機能しています。
その結果、東南アジアやインドへの生産移転・投資分散が加速しているという指摘は、現場感覚に裏打ちされた現実的な分析だと言えます。
特に重要なのは、
・中国リスクが政治・地政学・制度リスクとして認識されている点
・単なる人件費比較ではなく、経済安全保障の文脈で投資先が選ばれている点
ここに、従来の「グローバル化」とは異なる、新しい時代の投資論理が明確に示されています。

2.インドの魅力──「巨大市場 × 民主主義 × 分散効果」
近藤氏が強調するインドの魅力は、三層構造になっています。
① 巨大な国内市場
インドは中国と同様に、自国内だけでスケールメリットが成立する市場を持っています。
これは輸出依存型の国とは根本的に異なり、日本企業にとって中長期的な安定性を意味します。
② 民主主義国家であること
ここが極めて重要な指摘です。
独裁国家特有の「突然のルール変更」「恣意的な規制強化」というリスクが、相対的に低い。
これは単なる価値観の問題ではなく、投資回収の予見可能性という、企業にとって死活的な要素に直結します。
③ 経済安全保障としての分散効果
半導体、重要鉱物、クリーンエネルギー、デジタル分野など、戦略物資・戦略技術を一国に依存しない体制づくり。
インドをサプライチェーンの一部に組み込むという発想は、防御的であると同時に、未来志向でもあります。
ここでは「脱中国」ではなく、リスクを抑えながら選択肢を増やすという、非常に成熟した戦略思考が示されています。

3.日印共同ビジョンの評価──「数字」が示す本気度
日印関係が単なる掛け声で終わらない理由は、具体的な数値目標が明示されている点にあります。
・今後10年で日本からインドへの投資:10兆円
・半導体・AI分野での協力推進
・50万人規模の双方向人材交流
これらは外交文書としては異例の具体性であり、政府だけでなく民間を巻き込んだ「実装段階」に入っていることを示しています。
特に人材交流の規模は象徴的です。
モノや資本だけでなく、人の往来を基盤に関係を深めるという姿勢は、短期利益よりも長期的信頼を重視する日本らしいアプローチだと感じます。

4.冷静な懸念提示──楽観に流れない知的誠実さ
この分析が優れているのは、期待だけで終わらず、はっきりとした懸念点も提示している点です。
・日本経済の体力低下
・トランプ関税の影響という外的ショック
・「中国も維持し、インドも育てる」企業心理の揺らぎ
・インド投資特有の時間のかかり方
・信頼できる現地パートナー選定の難しさ
特に「検討ばかりして投資タイミングを逃すリスク」と「安易な大型投資の危険性」を同時に指摘している点は、非常にバランス感覚に優れています。
これは、政策論としても、経営判断としても、過度な楽観主義への警鐘になっています。

5.成功事例が示す現実的な希望
最後に紹介される具体例──
・スズキの自動車事業
・日本製鉄とアルセロール・ミッタルの提携
・住友不動産のムンバイ開発
・メガバンクの大規模出資
これらは、「インドは難しい」という抽象論を超えて、すでに成果を上げている現実を示しています。
特に注目すべきは、製造・不動産・金融という、異なる分野で成功例が出ている点です。
これは、インドが「一部企業だけが成功する特殊市場」ではなく、裾野の広い成長市場になりつつあることを示唆しています。

6.感想
近藤正規氏の分析は、
・地政学
・経済安全保障
・企業行動
・政策と現場の接点
これらを一体として捉えた、非常に成熟した議論だと感じました。
特に印象的なのは、「インドは万能の解ではない」という前提を崩さずに、それでもなお「今、向き合う価値がある相手だ」と説得力をもって示している点です。
短期的な成果を煽らず、しかし手をこまねいている余裕もない──
その緊張感のある現実認識こそが、この解説の最大の価値だと思います。
高市政権の下での日印関係は、理念先行ではなく、実務とリスク管理に根ざした大人の戦略として進みうる。
その可能性を冷静かつ前向きに示してくれた、聴きごたえのある内容でした。