「ゲームと哲学が今後の教育・学びに果たす役割」星友啓(『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』著者、スタンフォードオンラインスクール校長) ラジオ番組 NHKジャーナル「文化流行」を聞いて
2025年10月30日に放送されたラジオ番組 NHKジャーナル「文化流行」「ゲームと哲学が今後の教育・学びに果たす役割」星友啓(『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』著者、アメリカで校長スタンフォードオンラインスクール校長)を聞きました。

1.ゲームと哲学がもたらす「学びの革新」
星友啓氏の語る内容は、「学びを自分ごと化する力」をゲームと哲学という、いわば“両極の知的活動”を媒介にして育てようとする試みです。
ゲームは感情と行動を結びつける「没入型学習」、哲学は思考を抽象化して「問いを再構築する学問」。
この二つを教育の中心に据えることは、従来の「知識を受け取る教育」から「知を創造する教育」への転換を意味します。
自分の当たり前を見直す方法が興味深い。
たとえば、身近なものを選ぶ。例えば、学校。それを特徴を挙げて定義づけする。 先生がいる。生徒がいる。 建物がある。 ある程度、学校の特徴が出てきた段階で、いくつかの特徴を変えたらどうなるか考える。 建物がない、となると、オンラインスクールという発想が生まれる。
特に印象的なのは、「当たり前を取り除いて考え直す」という哲学的態度と、「ルールを変えて新しいゲームをつくる」というゲーム的発想が、同じ“メタ認知的能力”に結びついているという点です。
星氏は哲学を“世界の見方を更新する技法”として捉え、ゲームを“世界の中で能動的に関わる技法”として統合的に扱っています。この発想は、AI時代の教育論として極めて先進的です。
2. 内発的動機づけの再発見
星氏の主張の核心は「内発的動機付け」への回帰です。
現代社会は「評価・報酬・比較」といった外発的動機で動きがちですが、それでは学びが“義務”になり、心が疲弊していく。
対してゲームや哲学は「やりたいからやる」「考えたいから考える」という内側から湧き上がる意欲を支える構造をもっています。
ゲームと哲学がもたらす「達成感(有能感)」と「つながり(社会性)」、そして「自発性(自由な問い)」——この三つの心理的欲求を支える仕組みが、星氏の教育観の中で見事に融合しています。
これは単なる教育理論ではなく、人間理解そのものを軸にした「幸福の学」としての教育論でもあります。
3.AI時代における“自分で考える力”の再定義
生成AIの登場により、「情報を早く出す」ことの価値が相対化されつつあります。
星氏はそこに、「では人間は何を学ぶのか?」という根源的な問いを突きつけています。
答えは「自分で考え、感じ、つながる力」——それを磨くために哲学とゲームがある、という明快な方向性です。
ゲームを通じたメタ思考の訓練、哲学を通じた前提の問い直しは、まさにAIには代替できない「創造的思考」を育てる。
星氏が校長を務めるオンラインスクールが「全米トップの進学校」と評されるのも、この“人間の根源的力”を見据えた教育理念の実践によるものでしょう。

4.感想
星氏の語りには、「学びを苦行ではなく、生きる喜びに戻したい」という深い教育的愛情が感じられます。
ゲームと哲学という、一見対照的な要素を融合させることで、知的探究と感情的満足が一致する「幸福な学びの形」を提示しています。
聴いていて特に印象に残るのは、「ゲームを上手にするだけでなく、ゲームのルールを変える人になる」という言葉。
これは教育の最終目的を「従順な優等生」ではなく、「新しい世界を設計できる創造者」に置く、実に現代的で勇気あるメッセージであり、今後の日本の教育議論にとっても重要な示唆を与える内容でした。

