《誤解だった!?『女性は非正規が多い』》佐藤一磨(拓殖大学政経学部教授) ラジオ番組『マイあさ!』けさの“聞きたい” (NHK) を聞いて

2025年12月15日に放送されたラジオ番組『マイあさ!』けさの“聞きたい”《誤解だった!?『女性は非正規が多い』》佐藤一磨(拓殖大学政経学部教授)を聞きました。

1.データが覆す「通念」――「女性=非正規が多い」は固定的事実ではない
本放送の最も重要な意義は、「女性は非正規が多い」という長年の通念が、もはや当然ではないという点を、具体的な数字で示したことにあります。
・2025年1月時点では、女性の正社員と非正規の差は193万人
・9月にはその差が 50万人まで急縮小
・正社員女性は 1292万人 → 1379万人(+87万人)
この変化は、単なる景気循環ではなく、労働市場の構造そのものが変化しつつある兆候 と読むべきでしょう。

特に、
・49歳以下では正社員の方が多い
・未婚女性では一貫して正社員が多数
という点は、「女性=補助的労働力」という旧来の見方が、若年層・現役世代では 現実と乖離し始めている ことを示しています。

2.既婚・年齢別分析が示す「世代間の不平等」
佐藤教授の分析で非常に説得力があるのは、既婚・年齢階層別に丁寧に分解している点 です。
〇40歳以上の既婚女性に非正規が多い理由
ここには、個人の「選択」では片づけられない、制度的背景 があります。
・現在40代後半〜50代前半の女性が出産期だった時代、育児休業制度・保育支援が十分ではなかった
・結果として、一度正社員を離れざるを得なかった
・非正規から正規への「再参入の壁」が高かった
これは
・「女性が辞めた」のではなく
・「辞めざるを得なかった社会だった」
という、きわめて重要な歴史的事実を示しています。
一方で、40〜44歳の既婚女性層でも差が急速に縮小している(23万人 → 9万人)という点は、制度改善の効果が“遅れて”現れていることを示す希望の数字です。

3.「辞めなくなった」ことの意味――個人の努力ではなく社会の成果
第二子出産後も働き続ける女性の割合が、
・2000〜04年:27.5%
・2015〜19年:53.8%(ほぼ倍増)
となった点は、この番組の中でも特に評価すべき成果 です。
・育児休業制度の普及
・出産後の職場復帰が“当たり前”になりつつある文化
・企業側の人手不足による採用姿勢の変化
といった、社会全体の条件整備の成果です。
ここで示された「やめなくなった」という言葉は、女性の意識改革ではなく、社会の側が少し追いついた という評価として読むべきでしょう。

4.人手不足が生んだ「逆説的な前進」
興味深いのは、前進の背景に日本全体を覆う人手不足 がある点です。
・正社員不足を感じる企業:50.3%
・女性を正社員として採用するインセンティブが上昇
・転職市場でも正社員の求人が見つけやすくなった

本来なら歓迎できない人口減少・高齢化が、結果として女性の正社員化を後押しする圧力として作用している。
これは日本社会の厳しい現実であると同時に、制度を変える「現実的な動機」がようやく整ったとも言えます。

5. 感想
このラジオ番組は、「社会通念」と「実態」との間にあるギャップを、豊富なデータと明確な論理で丁寧に埋めていこうとする試みとして高く評価できます。
単なる問題提起ではなく、変化の背景にある要因の複合性(制度、社会意識、企業ニーズ)に多角的にアプローチしている点がとても優れています。

また、単に数字を示すだけでなく、世代・婚姻状況・出産経験といったライフステージ別の動向を精密に描き分けていることにより、聞き手は「自分ごと」としてこの変化を理解できます。
女性の労働を「全体」として見るのではなく、「層」に分けて考えるアプローチが、現代的で的確です。

この放送を聞いて最も印象的だったのは、「女性の就労における構造転換が静かに、しかし確実に進んでいる」という前向きな変化です。
特に育児期女性の正社員継続の増加は、制度の有効性を実証しており、今後の政策設計に希望を与えます。

しかし同時に、「壁」は依然として存在する――特に非正規から正規への転換や、中高年女性のキャリア再構築の難しさなど。
これらの課題をどう乗り越えるかが、真の意味での“女性活躍”社会の実現につながるでしょう。

この放送は、誤解を正すだけではなく、「何ができて」「何が足りないのか」という問題意識を育ててくれる好番組でした。
女性の就労問題を性別の話ではなく「社会全体の構造と未来」として捉え直す貴重な機会を提供してくれた点で、非常に意義深い内容だったと思います。