《アメリカの国民的おやつ「ドーナツ」》中川佐和子(アメリカ) ラジオ番組「海外マイあさだより」(NHK) を聞いて
2025年12月14日に放送されたラジオ番組「海外マイあさだより」《アメリカの国民的おやつ「ドーナツ」》中川佐和子(アメリカ)を聞きました。

1.「国民的おやつ」としてのドーナツの強さ
中川佐和子さんのリポートがまず鮮やかに伝えているのは、ドーナツがアメリカ社会に深く根を下ろした存在であるという事実です。
年齢や階層を問わず好まれること、コーヒーと一緒に朝食としても成立することは、ドーナツが単なる「甘いお菓子」ではなく、生活のリズムの一部になっていることを示しています。
特に、
・揚げたてのふわふわ感
・真ん中に穴のある親しみやすい形
・カラフルなトッピングによる視覚的楽しさ
といった描写は、味覚だけでなく触覚・視覚・感情にまで訴えかけ、ドーナツが「食べる体験そのもの」を提供していることをよく表しています。
フォークも皿もいらず、手で気軽に食べられるという点も、忙しい日常を生きるアメリカ人の生活感覚と見事に合致しています。
2.移民の歴史が生んだ食文化
ドーナツの起源が、オランダからアメリカに渡った人々の伝統的なケーキにある、という説明は、アメリカ文化の本質を象徴しています。
「ドー(生地)」を「ナッツほどの大きさ」にして油で揚げる――この素朴な工夫が、やがて国民的おやつへと発展していった過程には、移民社会ならではの生活の知恵と創造性が感じられます。
「ドーナッツ=生地のナッツ」という語源の紹介も、言葉と食文化が自然に結びついて生まれてきたことを示しており、アメリカという国が多様な文化を日常の中で溶かし合わせてきた歴史を、ドーナツ一つで語れる点がとても興味深いです。
3.警察官とドーナツ──ユーモアと現実の交差点
警察官とドーナツのステレオタイプについてのエピソードは、軽妙でありながら社会的な背景も感じさせます。
アニメ的なイメージにとどまらず、実際にパトカーが何台もドーナツ店に停まっていたという中川さんの体験談は、フィクションと現実が重なり合う瞬間を生き生きと伝えています。
さらに印象深いのは、
・夜遅くまで開いているドーナツ店が犯罪のターゲットになりやすい
・そのために無料でドーナツとコーヒーを警察官に提供し、巡回してもらっていた
という話です。
ここには、単なる「好物」の話を超えて、地域社会の安全を食を通して支える知恵が見えます。
ドーナツ店は、警察官にとっては休息の場であり、店側にとっては守りの拠点でもある。
ドーナツが人と人をつなぐ媒介として機能している点が、とてもアメリカ的で温かいと感じました。

4.感想
このリポートの優れている点は、ドーナツを「かわいらしいお菓子」として描くだけでなく、
・移民の歴史
・日常生活の合理性
・ユーモアを含んだ社会構造
までを、短い語りの中に自然に織り込んでいるところにあります。
一つのドーナツから、アメリカという国の多様性・実用主義・コミュニティ意識が立ち上がってくる構成は、「海外マイあさだより」らしい知的で親しみやすい魅力に満ちています。
個人的には、ドーナツが「家計に優しい」「誰でも手に取れる」存在として語られている点に、アメリカ社会の平等感覚と日常の温もりを感じました。
高級でも特別でもないからこそ、そこに集う人々の関係が自然に生まれる――ドーナツは、甘さ以上に人間関係の柔らかさを象徴する食べ物なのだと、あらためて気づかされました。
