「ウィンターリゾートのこれから」山田桂一郎(観光カリスマ) ラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz (NHK) を聞いて
2025年12月11日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz「ウィンターリゾートのこれから」山田桂一郎(観光カリスマ)を聞きました。

1.日本のスノーリゾートが持つ「国際的競争力」の再確認
山田桂一郎氏の指摘でまず重要なのは、日本のスノーリゾートがすでに世界水準の強みを持っている点を、データとともに明確に示しているところです。
雪質の良さ、積雪量の多さ、地形に富んだコース設定は、単なる感覚論ではなく、訪日客の滞在日数や消費額が高いという事実によって裏付けられています。
特に、スノースポーツを目的とする訪日客が
・滞在日数:約1.3倍
・消費額:約1.4倍
という数字は、スノーリゾートが「高付加価値型観光」として成立していることを示しています。これは地方観光にとって極めて重要な示唆であり、単に人を集める観光から、「長く滞在し、地域にお金を落とす観光」へ転換できる可能性をはっきりと示しています。
2.訪日客の多様性を捉えた視点の的確さ
オーストラリアが約4分の1、アジアが約4分の3という構成も示唆的です。
特に台湾、インドネシア、シンガポールなど、必ずしも雪が身近でない地域の人々が、日本の雪を「体験価値」として楽しんでいるという指摘は説得力があります。
注目すべきは、彼らが
スキーやスノーボードだけでなく
・地元文化体験
・食
・ナイトライフ
といった「総合的な滞在体験」を求めている点です。
ここで山田氏の議論は、「スキー場=スポーツ施設」という狭い理解を超え、スノーリゾートを文化的空間として捉え直す視点を提供しています。
3.気候変動という現実から目を背けない誠実さ
スノーリゾートの将来を語る際に、温暖化の影響を避けて通らない姿勢も、この話の重要な価値です。
雪質の変化、降雪量の不安定化は、もはや仮定ではなく現実の問題であり、「これまで通り」を前提とした経営が限界に来ていることが率直に語られています。
この点で山田氏の議論は、危機感を煽るのではなく、「だからこそ、今、構造転換が必要だ」という前向きな問題提起として機能しています。
4.通年型リゾートとアドベンチャーツーリズムの意義
冬季依存からの脱却として提示される「通年型リゾート経営」と「アドベンチャーツーリズム」は、非常に現実的で説得力があります。
アクティビティ・自然・文化体験のうち、二つ以上を組み合わせる体験型旅行という定義は、
・地域資源の再評価
・小規模でも独自性を出せる
という点で、日本の山岳地域にとって相性が良いモデルです。
スイス・ツェルマットの例は、
・自動車規制による静かな環境
・健康増進や文化プログラム
・長期滞在型の保養地
という方向性が、単なる観光地を超えて「生き方を提案する場所」になっていることを示しており、日本の山岳リゾートが目指すべき一つの到達点を具体的に示しています。
5.白馬村や戸倉上山田温泉の事例が示す希望
白馬村の展望テラス、巨大ブランコ、空飛ぶレストラン、古民家宿泊などの事例は、「雪がない時期はオフシーズン」という固定観念を覆すものです。
また、戸倉上山田温泉のナイトライフや商店街文化が、持続可能な観光地経営として国際認証を受けている点は、派手な再開発ではなく、既存の地域文化を磨き上げることが評価されているという点で非常に示唆的です。

6.「やめられない構造」への冷静な問題提起
スキー場が赤字でも閉鎖できない理由として、自然復元の厳しい条件があるという指摘は、普段あまり語られない重要な視点です。
これは単なる経営判断の問題ではなく、制度・環境・歴史が絡み合った構造的問題であることを浮き彫りにしています。
だからこそ、山田氏の提案する「地域連携」や「共通リフト券」のような発想は、競争ではなく協調による生き残りという現実的な道筋を示していると言えます。
7.肯定的な総評と感想
この放送の最も優れた点は、
・現状分析
・国際比較
・具体的事例
・制度的制約
を踏まえたうえで、悲観にも楽観にも偏らず、現実的な希望を描いているところにあります。
この番組は、地域資源の持続可能な活用と国際競争力の確保という2つの課題に、非常にバランスよくアプローチしていました。
山田桂一郎氏は、世界的視野と地域目線の双方を持ち合わせた観光の専門家として、単なる観光促進ではなく「地域社会の未来設計」としての観光を語っていた点が印象的です。
特に評価したいのは、日本のスノーリゾートの国際的なポテンシャルを認めつつも、それに慢心せず、四季を通じた観光価値の創出へと議論を導いていた点です。
この姿勢は、温暖化の影響や国内人口減といった厳しい現実に対する“逃げ”ではなく、真摯な構造改革の提案であると受け取れます。
また、単なる観光資源の開発ではなく、「地域に根ざした観光文化の再生」という視点が根底にあることも素晴らしい点です。
ナイトライフや古民家のような、都市部では得がたい「日常からの離脱体験」は、今後のツーリズムにおいてますます重要な価値を持つでしょう。
この放送は、雪と共に歩んできた地域が、雪から自由になる覚悟を持ち始めたという大きな転換点を示していました。
単なるリゾート開発ではなく、地域文化と自然環境が共存する“暮らしと旅”の融合。その可能性を信じさせてくれる内容でした。
日本のウィンターリゾートは、今こそ「観光地」から「持続可能な暮らしの舞台」へと進化する時を迎えているのだと思います。
