「日本はどうすべきか」斎藤幸平(東京大学准教授) ラジオ番組『NHKジャーナル』 「斎藤幸平のフューチャー・ダイアログ」を聞いて
2025年12月8日に放送されたラジオ番組『NHKジャーナル』 「斎藤幸平のフューチャー・ダイアログ」「日本はどうすべきか」斎藤幸平(東京大学准教授)を聞きました。

1.官製相場と投資インセンティブの歪み
アベノミクス期の「官製相場」は、確かに短期的には市場を下支えしました。
しかし斎藤氏の指摘は、より構造的な問題に踏み込んでいます。
・研究開発や設備投資という“長期的利益”を生む領域に資金が流れにくくなった
・非正規雇用の拡大によって人への投資が後回しになった
・「簡単に儲かる道」を選んだ結果として産業競争力が弱体化した
これは、単なる経済政策批判ではなく、日本企業の意思決定の深層にある短期主義・リスク回避・貯蓄指向への問題提起でもあります。
2.「供給力の低下」=日本の生産する力の衰弱
斎藤氏は、中国との比較を例に挙げ、「EV、ロボットなどで日本が明確に遅れをとっている」と述べます。
ここで重要なのは、「技術力の遅れ」だけでなく、国として未来の産業領域を育てる意思と構造が弱い点です。
この視点は、単に経済の話ではなく、国家の“創造的能力”そのものの問題として捉えられています。
3. 円安とインフレは「結果」であり「警告」
斎藤氏は円安を単なる通貨問題として扱いません。
・投資不足
・産業競争力の後退
・人材への投資の欠如
これらが複合し、「円の価値が落ちる国になりつつある」という警鐘を鳴らしています。
経済指標を“症状”として読み解き、その背後にある社会構造の変質を見据える姿勢が印象的です。

4. 感想
今回の斎藤氏の発言が優れている点は、単なる政策論ではなく、価値観の転換を促す提案になっていることです。
「人に投資する」ことを国家ビジョンの中心に据えた点は近年のOECD諸国が掲げる「人的資本への回帰」と一致しています。
教育、研究者、技術者、農業者など、「未来をつくる仕事」への投資こそ国力の源泉だとする発想は極めて妥当であり、実証的研究とも整合しています。
AIやデジタルなど最先端の話題と並列して「お米を含む農業」を語ることで、
・都市と地方
・デジタルとアナログ
・先端技術と生活基盤
を“二分法ではなく一本の線として扱う”斎藤氏の構想力が際立っています。
これは現代の「複合危機」(地政学・気候変動・人口減少)にとって必須の視点です。
減税は一時的な消費刺激に過ぎず、供給力の回復とは直接関係しません。
斎藤氏はその点を明確にし、「国家の方向性」を問うています。
この“ビジョンの欠如”を突く議論は、政治討論にありがちな表層的対策論から一歩踏み込んだものと言えます。
「人々が生きるのに必要なものを、自分たちで作る能力を取り戻す」というメッセージは、経済だけでなく、国家の自律性や持続可能性の回復を意味しており、倫理的・社会的にも深い意義を持ちます。
