《なぜ再注目「暗号資産」新事情》中田理惠(大和総研経済調査部研究員) ラジオ番組「マイあさ!」けさの“聞きたい (NHK) を聞いて
2025年12月5日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」けさの“聞きたい《なぜ再注目「暗号資産」新事情》中田理惠(大和総研経済調査部研究員)を聞きました。

1.暗号資産の本質:中央管理を超えた「信頼の再設計」
中田研究員の説明の中で最も重要な点は、暗号資産を単なる投資対象としてではなく、「中央集権を必要としない新しい信頼モデル」 として捉えていることです。
ブロックチェーンを「みんなで持つ記録台帳」と表現し、中央銀行という単一の管理者を不要にする仕組みをわかりやすく示しています。
これは金融の歴史から見ると大きな転換で、“信頼の置き場所を組織から技術へ移す” という思想が背後にあります。
番組では技術の専門説明を避けながらも、その核心を直感的に伝えている点が評価できます。
2. 利便性の強調:国境越えの個人間送金という社会的価値
「短時間で送金できる」「仲介が不要」という説明は一見単純ですが、国際送金の高コスト・長時間という課題を考えると、暗号資産が持つ社会的な恩恵 を的確に示しています。
特に、海外労働者の送金や国際的な寄付など、現実に役立つ場面が多く、こうした “生活者目線の利便性” に触れたのは非常に良いポイントです。
3. ステーブルコインの登場と重要性の整理が明快
暗号資産が通貨として扱いにくい理由(=価値の保存機能の弱さ)を述べた後、2014年登場のステーブルコインを提示する構成は論理が明確です。
・暗号資産の弱点
・ステーブルコインでそれを補完
・通貨に近い性質が生まれた
という流れは非常に理解しやすく、“暗号資産の中に生まれた改良型” として紹介している点が初心者にも親切です。
さらに、価値の裏付けを「発行額と同等の資産」と説明し、安定性の根拠を丁寧に提示 しているところが好印象です。
4. アメリカの政策転換を「制限 → 統制」 として整理した洞察の深さ
特筆すべきは、第二次トランプ政権の政策を「制限から統制へ」 と言語化したことです。
この言い回しは単なる事実の列挙ではなく、政策の方向性を一言で表す優れた分析です。
・野放図に広がる暗号資産を規制する段階(制限)
・公的枠組みに取り込み、活用促進へ向かう段階(統制)
この説明により、アメリカが本気で暗号資産を国家戦略の一部として位置付けた ことが伝わり、国際政治の文脈と金融技術が結び付いて見えます。
5. アメリカの狙いを「基軸通貨の防衛」として示した点は鋭い
デジタル人民元の登場やドルの基軸通貨としての影響力低下に触れ、それを背景に「米ドル建てステーブルコインを広げる」という戦略を示しています。
これは非常に重要な視点で、暗号資産の話を 世界経済・地政学 の大きな流れに位置づけていることで、聴き手の理解を一段引き上げています。

6. “アメリカが動けば世界が動く” の描写が金融の現実をよく捉えている
アメリカの政策を受けて各国が研究開発を進めているという説明は、金融技術の世界が政治経済と直結している実態をよく示しています。
暗号資産は一時的な流行ではなく、各国が取り組まざるを得ない技術・制度の潮流である ことを自然に理解させてくれます。
7. 感想
中田氏の説明は、専門用語を多用せず、暗号資産の本質、利便性、国際政治との関係を立体的にまとめています。
暗号資産は価格変動が大きく、投機的側面が強いものですが、番組では「価値保存が弱い」「通貨とは言い難い」と明確に指摘。
その上でステーブルコインの意義を紹介しており、冷静さと公平さ が際立っています。
単に「暗号資産の説明」にとどまらず、基軸通貨争い、米中の対立構造、デジタル通貨の覇権争いに触れており、“世界の流れの中で暗号資産を見る” 視点を提供しています。
また、“信頼を誰に委ねるのか”という金融の根源的テーマが自然と浮かび上がり、現代社会において大切な問いを投げかける内容でもありました。
