《「インパクト投資」投資リターンと社会的意義の両立》太田珠美(大和総研金融調査部主席研究員) ラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz (NHK) を聞いて
2025年12月2日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz《「インパクト投資」投資リターンと社会的意義の両立》太田珠美(大和総研金融調査部主席研究員)を聞きました。

1.「利益」と「社会的意義」の両立という挑戦
太田珠美氏が語る「インパクト投資」は、単なる「良いことをする投資」ではなく、「投資によって得られる経済的リターン」と「環境・社会に与えるポジティブな影響」の両立を目指す投資スタイルです。ここでは以下のような特徴が挙げられていました:
・目的性:環境破壊や貧困などの社会問題の「改善」や「予防」を主目的とする。
・測定と改善:期待する社会的効果が出ていない場合には、企業への働きかけを通じて行動の修正を促す点で、従来のESG(企業を評価する際に財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンスの視点も重視する考え方)投資とは一線を画す。
・進化する枠組み:2000年代後半に登場し、今や政府(金融庁や経産省)も本格的に指針を作成するなど、制度としての成熟が進んでいる。
このような動きは、「投資家=無関心な資本家」という従来のイメージを大きく転換させるものであり、極めて画期的です。
2. 日本と世界の動向:官民連携とテーマの多様化
放送内では、世界と日本における取り組みの違いと進化についても触れられていました。
・日本では:教育、子育て支援、中小企業支援など、比較的生活に密着したテーマが中心。
・海外では:再生可能エネルギー、マイクロファイナンス、温室効果ガス削減など、グローバル規模での課題解決を志向。
・制度的支援:金融庁・経産省が協働して自治体や企業に働きかけるという「国全体での推進姿勢」も明確にされており、ESGからさらに一歩進んだ社会変革志向が見られます。
3. 個人投資家への広がりと新しい選択肢
個人がアクセスできる「インパクトファンド」や「グリーンボンド(環境目的の債券)」も紹介され、個人でも参加可能な投資手段が広がっている点が強調されていました。
特に:
・債券による参加:社会インフラや環境改善に資金を投じる。
・投資信託や株式での選択:インパクト会計を活用し、社会課題に真剣に取り組む企業に資金を集める。
これは、リテラシーを持つ個人が「お金で未来をつくる」時代への入り口とも言えるでしょう。

4. 感想
太田氏の説明は、単なる制度論にとどまらず、投資が持つ「社会とのつながり」を強く印象づけるものでした。
資本を単なる自己利益追求の手段ではなく、「社会変革のエンジン」と捉え直す視点は、金融教育や倫理的資本主義の実践として、今後ますます必要とされるものです。
「発展途上の分野」としてのインパクト投資の課題や限界にも触れられており、楽観的な美談で終わらせないバランス感覚も好印象でした。
特に「効果が見えないときには企業に改善を求める」といったガバナンス要素に着目する点は、成熟した投資文化の萌芽を感じさせます。
グリーンボンドや投資信託といった身近な例を挙げながら、「あなたにもできる」と伝える構成は、ラジオ番組としての語り口に非常に適していました。
抽象論ではなく、実生活とのつながりがある話題であることが伝わってきます。
従来、投資という言葉には「ギャンブル性」「倫理の欠如」といったネガティブなイメージがつきまとっていた部分もありました。
しかし、太田氏の語るインパクト投資は、そうしたステレオタイプを覆し、「資本の倫理的再構成」という未来の可能性を指し示しています。
特に、日本でも子育て支援や教育、地域活性化といった身近な課題が投資対象となっている点は、地方自治体との連携、NPOやベンチャー企業との協業など、多様なパートナーシップの可能性を感じさせます。
「お金に意志を持たせる」——そういった哲学的な転換が、投資の世界で本格的に始まっているという気づきを与えてくれる番組内容でした。
今後は、インパクトの可視化(=インパクト会計)や、より厳格な評価基準の整備も進むことでしょう。
そして何より、「私たち一人ひとりが社会をどう良くしたいか?」という問いを投資行動に反映させる時代が、すでに始まっているのです。
