「相次ぐ水道管の破損事故 水道インフラの今後を考える」橋本淳司(武蔵野大学工学部サステナビリティ学科客員教授) ラジオ番組「マイあさ!」(NHK) を聞いて
2025年12月1日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」「相次ぐ水道管の破損事故 水道インフラの今後を考える」橋本淳司(武蔵野大学工学部サステナビリティ学科客員教授)を聞きました。

1.水道管老朽化問題の「見えにくさ」が深刻化の根本要因
水道管の耐用年数が40年とされる中、更新が必要な時期にすでに達している管路が全国で増加しているものの、地下という「不可視領域」で起きているために、問題が顕在化するのは多くの場合“事故の後”です。
地下10mという深度に敷設された下水管は腐食の進行が把握しづらく、破損すると土砂の流入による空洞化、そして道路陥没にまで至りうる——これは都市基盤が持つ脆弱性を端的に示す現象です。
この「見えにくさ」は単なる物理的問題ではなく、行政の点検能力の低下、人手不足、情報の分散管理といった“制度的課題”を複合的に悪化させています。
2.「情報の一元化ができていない」という構造的問題
水道管・下水管・ガス管・通信ケーブルなど、多数のインフラ施設が地下で交錯し、管理主体も自治体、水道局、通信事業者、民間企業など多岐にわたります。
しかし、総合的な地下インフラ台帳が統一されていないため、点検や工事計画の際に効率性が確保できず、事故予防が後手に回ることになります。
特に25年間で職員数が 47,000人 → 26,000人(4割以上減) という事実は衝撃的で、「維持管理の質を低下させずに、減った人員でどうカバーするか」という課題が、行政にとって切実な現実であることを意味します。
3. 更新費用の高さが抜本改革を困難にする
上水道の更新費用は 1km あたり1〜2億円。
下水管はその3〜4倍。
つまり、1kmで最大8億円。これを全国規模で置き換えるとなれば、自治体の財政だけでは到底まかなえないほど膨大です。
さらに建設業界の人手不足により、自治体が発注しても入札不調が相次ぐという現状は、「計画しても実行できない」新たな壁となっています。
これは、単なるインフラ問題ではなく、日本の人口減少と財政制約が重なる“時代構造の課題”として理解すべき領域です。
4. 集中型インフラから「分散・複線化」へ
番組で紹介された「複線化・多重化(バックアップ)」は、災害時の回復力(レジリエンス)を高めるための重要な視点です。
さらに、下水道区域を縮小して浄化槽を拡大するという提案は、これまで「全国一律」の大規模集中方式をとってきた日本が、地域特性に応じた分散型インフラへ移行する段階が来ていることを示唆しています。
これは、省エネ住宅や再生可能エネルギーなどと同じく、「小さくても自立できる地域構造」への転換という、環境時代に適応した発想に通じます。

5.感想
この番組は、水道管の破損事故を単に技術不良として扱うのではなく、人員削減・財政制約・情報分散・入札不調という制度的・社会的背景まで射程に入れて問題を論じており、公共インフラをめぐる構造的危機を包括的に理解できるつくりになっています。
これは非常に教育的で、聴き手の問題意識を高める優れた解説だと評価できます。
従来の水道行政は「すべてをつなぐ」一方向の拡張思考でした。
しかし、人口減少社会においては、どの管を残すか、どの地域を分散処理へ移行するか、更新をやめて浄化槽へ切り替えるかといった「選択と集中」が重要になります。
この番組は、過去の延長線ではなく、将来モデルとしての分散型・複線化モデルを提示しており、政策的にも極めて現実的で希望のある提案です。
この講義のような解説を通じて、水道インフラが抱える危機が「静かに進む国土の老化」であることを痛感します。
地震でも豪雨でもなく、目に見えない老朽化で社会基盤が崩れる可能性がある——その現実を正面から語る姿勢に誠実さを感じました。
また、分散型処理やAIによる監視、多重化といった「未来の水道像」は、単に問題を嘆くのではなく、前向きな方向性を指し示しており、大きな希望を与えてくれます。
インフラは社会の骨格であり、更新は次世代への贈り物です。
この番組は、その重要性を市民の視点からも分かりやすく示してくれた点で、実に価値の高い内容だと感じました。
