「自治体の生成AI活用」の課題/片山善博(大正大学地域創生学部公共政策学科特任教授) ラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz (NHK) を聞いて

2025年12月2日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz「自治体の生成AI活用」の課題/片山善博(大正大学地域創生学部公共政策学科特任教授)を聞きました。

1.導入状況の広がりと背景
番組では、生成AIの自治体活用が急速に広まっている現状が紹介されました。
令和6年度には、都道府県の84%、政令指定都市の90%、市区町村の約3割が導入しているとのことです。
この導入の背景には、深刻な人手不足があります。
少ない職員数で多様化・複雑化する行政ニーズに応えるには、業務の効率化が不可欠であり、生成AIはその手段として期待されています。

2. 主な活用分野
生成AIは、定型的・文書的な業務への活用が中心です。具体的には以下のような分野です:
・挨拶文案の作成
・会議の議事録要約
・企画書や想定問答の文案作成
・事業の見直し支援
これにより、職員はより創造的で住民対応に近い業務に集中できる時間を確保しやすくなり、業務の質の向上やワークライフバランスの改善にもつながっているとされています。

3. リスクと課題
一方で、生成AIの活用にはリスクも伴います。
・誤情報の生成(ハルシネーション)
・個人情報の不適切な入力
・個人情報保護条例違反の懸念
・国通知文の“金科玉条化”による自治体の主体性喪失
特に後者について片山氏は強調しており、生成AIに国の通知を「一律に正しい情報」として読み込ませることで、あたかも従うべき義務のように扱ってしまう懸念を示しました。
本来、地方分権改革(2000年)以降は自治体と国は「対等の関係」にあり、通知は助言でしかありません。
生成AIの運用次第では、この自治体の判断権限や主体性が揺らぐ恐れがあるのです。

4. 感想
片山氏の話は、単なる技術導入の是非を超えて、自治体のあり方と主権性という根本的な視点から生成AIを問い直している点で非常に価値があります。
生成AIは、行政効率化のツールとしては極めて有望であり、業務負担の軽減、企画力の支援、職員の働き方改革にも貢献しています。
特に小規模自治体や人員削減が進む地方では、生成AIは“デジタル職員”としての役割を果たし得るでしょう。

有給休暇の取得率が上がり、ワークライフバランスが向上したという点も注目に値します。
単に「便利」なツールではなく、職員の心身の余裕を生み、働きやすさに寄与するツールとして生成AIが認識されていることは、今後の導入推進の際の大きな説得材料となります。

同時に、「AIに何を読み込ませるか」「どこまで任せるか」という判断の重要性にも言及しており、テクノロジーの受け身的利用を避け、主体的・選択的な運用をすべきとのメッセージは非常に示唆に富んでいます。
この警鐘は、他の自治体のみならず、民間企業にも適用可能な普遍的な教訓です。

とりわけ、「通知を読み込ませると、従わなければならないという思い込みが生まれる」という指摘は、日本社会に特有の“お上意識”と、テクノロジーのブラックボックス性が重なり合うことで生まれる危うさを言い当てており、今後のAI時代における「自治の本質」とは何かを改めて考えさせられました。

今後、生成AIがさらに自治体に浸透する中で、こうしたガバナンス意識をどのように育て、共有し、制度設計や職員教育に活かしていくかが問われるでしょう。
本放送はその出発点となる、極めて重要な問題提起だったと思います。