「アマゾンの違法な森林伐採を日本の衛星観測で発見!」小此木宏明(JICA専門家) 番組「ちきゅうラジオ」(NHK) を聞いて
2025年11月30日に放送された番組「ちきゅうラジオ」(NHK)「アマゾンの違法な森林伐採を日本の衛星観測で発見!」小此木宏明(JICA専門家)を聞きました。

1.日本の技術力と国際協力の結晶:JICA × JAXA × ブラジル政府の連携
本プロジェクトは2009年から継続されており、日本の国際協力機構(JICA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)、そしてブラジル政府との三者連携によって実施されています。
この長期的で粘り強い国際協力は、日本の技術力を活かした“環境外交”の好例といえるでしょう。
特筆すべきは、人工衛星の活用です。
JAXAの人工衛星が撮影した画像を通じて、広大なアマゾンの変化を捉えることが可能になり、これによって従来は把握が難しかった違法伐採の“兆候”や“進行状況”を定量的に監視できるようになりました。
2. 違法伐採の実態とその背景:農業・鉱業開発の影
1990年から2020年の30年間で、アマゾンでは日本の国土面積(約38万km²)を上回る41万km²の森林が失われたといいます。
これは毎日、渋谷区1区分(約15km²)規模の森林が消えている計算です。
伐採の9割は違法とされ、その多くは「農地拡大」「放牧地確保」「鉱山開発」といった経済活動に由来します。
さらに、火災を意図的に発生させて森林を一掃し、土地を転用する手口も横行しています。
この現状は、地球環境の喪失と地元の失政・経済格差が結びついた複雑な構造を物語っており、「誰のための開発か?」という倫理的問題も浮かび上がります。
3. 技術革新:雲をすり抜けるレーザー観測
従来の光学衛星では雲に阻まれてしまうという限界がありました。
しかし、今回紹介されたレーザー技術は、雲を透過して森林の立体的な構造や変化を把握できます。
とくに、中心に道路があり、その周囲に広がる伐採地という典型的な“パターン”を衛星画像で見抜けるようになった点は注目です。
これにより、AIを活用したパターン認識・異常検知技術の展開も期待されます。
4. 人材育成という“知の移転”
単に技術提供にとどまらず、現地の技術者に向けた教育・訓練の実施という点も、このプロジェクトの意義を高めています。
これは持続可能な監視体制の確立と、開発途上国における“技術的自立”の促進に貢献しています。

5. 政策的インパクト:2030年までの森林減少ゼロ目標
ブラジル政府が掲げる「2030年までに森林減少ゼロ」の目標は、こうした国際的な技術・人材協力によって現実味を帯びてきました。
2025年の森林伐採面積は、2022年と比較して約半分にまで減少したという事実も、政策的効果と監視技術の貢献を物語っています。
6. 感想
衛星技術という「ハードな科学」が、違法伐採という「ソフトな倫理的課題」にアプローチしている点が極めて優れています。
自然保護の分野で科学技術が果たすべき役割を、実証的に示しています。
雲の多いアマゾン地域において、レーザー技術による“雲の向こう側を見る力”は、まさに「見えない環境犯罪を見抜く眼」といえます。
これは、環境ジャーナリズムや法的措置の根拠としても重要です。
単なる「技術移転」にとどまらず、現地の技術者育成を含む“知の共創”がなされている点は、JICAらしい持続可能な協力モデルです。
他の地域課題(たとえば水資源、都市計画、感染症監視など)への展開可能性も感じさせます。
この番組を通して、私たちは日本の科学技術が世界の森を守る目となり手となっていることに深い誇りと希望を抱くことができました。
同時に、「森を守る」という行為が、単なる自然保護にとどまらず、気候変動の抑止、地域の社会経済安定、人類の未来への投資であるという大きな視点を得ることができます。
違法伐採の現場に直接赴くことが難しい私たちにとって、このような“見えない問題を見える化する”技術は、まさに希望の光です。
技術・国際協力・教育・政策が有機的に結びついたこのプロジェクトは、SDGsの具体的実践例として世界に広めるべきだと感じました。
