「ラテン語の格言」ヤマザキマリ(漫画家) ラジオ番組「マイあさ!」サタデーエッセー (NHK) を聞いて
2025年11月29日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」サタデーエッセー「ラテン語の格言」ヤマザキマリ(漫画家)を聞きました。

1.ラテン語の格言は、経験を圧縮した“人類の知恵の結晶”
「怒りは短い狂気」「歴史は人生の教師」「人は、自分の信じたいものを信じる」。
これらは本質的に“人間の弱さと強さ”を捉えています。
ヤマザキさんが語るように、ローマ1000年の歴史の中で何度も繰り返されてきた人間の行動が、格言として凝縮されているからこそ、現代の私たちが聞いても古さを感じません。
2. “年齢とともに響き方が変わる言葉”という洞察
ヤマザキさんが述べた「20歳の時に記録した言葉と、60歳の時に感動する言葉は違う」という部分は非常に重要です。
これは格言が “変わる”のではなく、読み手が成熟することで、格言の意味が深層から立ち上がってくる ということを表しています。
つまり格言は固定の知識ではなく、人生経験を反映させて読み直す鏡なのです。
若い頃には理解できなかった痛みや喜びが人生に加わることで、格言は新しい色を持ち始めます。
3. “他者の思考”に触れて救われるという効能
ヤマザキさんは、足並みが揃わない時、「昔の誰かはこう考えた」と知ることで助けられると話しています。
これはまさに、格言が時間を超えた対話として機能するということです。
自分一人では出口を見つけられない苦しみでも、2000年前の誰かが似た悩みに向き合い、答えを残してくれている。
その存在を知るだけで、孤立感が薄れ、視野が一気に広がる。
ラテン語の格言が“実用的な想像力”を与えてくれるという指摘は非常に鋭いものです。

4. 感想
ヤマザキさんの魅力は、古典を過度に神格化せず、生活に活かす道具として再解釈する姿勢にあります。
彼女がイタリアで最初に聞いた「すべての道はローマに通じる」は、地理的・歴史的事実でありながら、人生の比喩として今も機能しています。
このように、ローマの歴史・自身の留学体験・現代の生活感が自然に混ざり合う語り口には、知識が“生きた形”で提示される軽やかさがあります。
また、格言を紹介するだけでなく、その格言が自分の人生のどこに作用したかを率直に語る点が、聴き手に深い共感を与えています。
これは単なる説明ではなく「格言の感受性」を共有する行為であり、文化的経験の分かち合いと言えます。
若い頃は意味がわからなくても、失敗や喪失や達成を経験するにつれ、言葉のなかに“自分の物語”が見えてくる。
そして、その言葉を大昔に残した人も、同じように悩み、怒り、喜び、迷い、そこから何かを学んだ。
そう考えると、格言は"歴史の中にいる誰かからの手紙"のようにも感じられます。
とくに「そう見られることより、そうであること」という言葉は、今の日本社会において大きな救いです。
役割や評価に縛られやすい環境の中で、“自分自身に正直であること”の価値を思い出させてくれる格言として、とても力強いものがあります。
