「日本の洋上風力発電を立て直す!」諸富徹(京都大学公共政策大学院教授) ラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz (NHK) を聞いて

2025年11月28日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz「日本の洋上風力発電を立て直す!」諸富徹(京都大学公共政策大学院教授)を聞きました。 

1.なぜ「13.4円」という低価格落札が起きたのか
諸富教授が指摘する核心は、当時の制度設計が“価格競争に過度に偏っていた”ことです。
国は「安い電力を実現すること」を重視しすぎたため、事業者側も不自然に安い価格で落札するインセンティブが働いた。
結果として、大手商社が「実現性より価格優先」の状態で入札に勝った。
つまり、制度が“実現困難な低価格”を誘発し、撤退のリスクを内包していたという構図が浮き彫りになります。
日本の入札ではよくある「逆ザヤ入札」の問題と構造的に同じで、洋上風力という巨大インフラではその歪みが特に大きく露呈したと言えます。

2. 物価上昇・資材高騰という環境変化の影響
教授の説明は、価格設定の問題に加え、経済環境が激変したことを的重要ポイントにしています。
・風車の鉄鋼価格・部材輸送費が急上昇
・円安進行で輸入パーツが割高化
・世界的な風力ブームで風車メーカーが逼迫し、価格が高騰
つまり、「当時ですら採算ギリギリ」だった25円が、現在では“事業成立ライン”としてさらに高騰している可能性があります。
13.4円での落札は構造的に破綻せざるを得なかったという教授の指摘は、物価から見ても、非常に妥当な分析だといえます。

3.「事業実現性」評価の弱さ
諸富教授が巧みに指摘しているのは、「価格」以外の評価基準が軽視されていたことです。
・地域との合意形成
 - 漁業協調
 - 景観問題
 - 地元自治体との調整
・技術計画の精度
・メーカーとの調達力・プロジェクト管理能力
日本の洋上風力は地域合意が特に難しく、世界では「コミュニティとの調整力」が重要視されているのに、日本ではこれが“実質的に価格の前に押し流されていた”と教授は述べています。
この指摘は、日本の再エネ政策が抱える最大の構造問題に切り込んでいる点で非常に鋭い部分です。

4. 国が検討すべき「追加収入」「期間延長」の意味
教授が提言する政策の方向性は、単なる救済策ではなく、産業としての成長を視野に入れた構造改革です。
①追加的収入(例:プレミアム制度)
・市場価格に上乗せする支援
・EUの CfD(差額決済契約)に近い “投資回収の見通し”を立てやすくする仕組み

②使用期間30年→40~50年へ延長
・風車のLCOE(均等化発電コスト)が下がる
・投資回収期間が長くなると採算が安定
・大規模インフラとして世界標準に近づく

つまり教授は、「日本の洋上風力を世界の投資市場に適した制度に変えるべきだ」という方向性を提示しています。

5. 2040年に「4〜8%」の意味
日本の洋上風力の現状1.1%は非常に小さいものの、2040年に4%〜8%というのはかなり意欲的で、産業構造にも影響を与えるレベルです。
世界では洋上風力は、造船、発電機メーカー、海運、ケーブル産業、コンクリート・鋼材、港湾整備といった、まさに“製造業の母体”を刺激する存在です。
教授が言う 「製造業への大きな波及効果」 は、洋上風力が「単なるエネルギー政策ではなく産業政策そのもの」である点を強調しています。

6. 感想
撤退した商社を過剰に批判せず、制度が“安値競争を誘発した”という構造問題として整理しています。
この視点は、責任論に陥らず建設的で、高く評価できます。

世界の洋上風力市場の動向を踏まえ、日本の制度が遅れている点を、冷静に指摘しています。
輸入依存や物価高を含む現実的な障壁を正面から扱う点も分かりやすい。

単に「再エネを増やすべき」という話ではなく、「日本の製造業再生戦略としての洋上風力」という大きな視点を提供しています。

教授の分析は、単なる時事解説にとどまらず、政策学の知見を一般向けに噛み砕いた優れた社会的教育として高い価値があります。