「地方自治体の動画活用から見えてくること」吉川昌孝(京都精華大学メディア表現学部教授) ラジオ番組『マイあさ!』マイ!Bizを聞いて
2025年11月26日に放送されたラジオ番組『マイあさ!』マイ!Biz「地方自治体の動画活用から見えてくること」吉川昌孝(京都精華大学メディア表現学部教授)を聞きました。

1.地方自治体が動画へ踏み出した「7割」という重み
2023年度に全国自治体の7割が公式サイトで映像を配信したという事実は、単に“動画が流行っている”という表層を超えて、自治体広報が 文字中心から映像中心へ大きく転換している兆候です。
文字や紙媒体では伝えにくかった活動内容が、動画では「空気感」「スピード」「人の表情」まで含めて直感的に伝わるため、行政への信頼形成にもつながりやすい。
とくに高齢者や子育て世代など、文章を読む時間が取りにくい層にとって、動画は“行政が身近になる手段”になりつつあります。
2. 群馬県に象徴される「自治体のメディア化」
県庁内にスタジオを設け、職員に機材を貸し出して動画制作を行うという群馬県の取り組みは、自治体が従来の“広報紙の作り手”から、“自前で映像を制作・発信するメディア”へと進化していることを示しています。
これは
・行政の透明性向上
・若年層へのリーチ拡大
・広報の即時性アップ
といったメリットをもたらします。
広報を外注せず、職員自身が作ることで地域のリアルにもっと迫れる点も重要です。
自治体自身のストーリーテリング能力が問われる時代に入りつつあります。
3.「地方自治体動画大賞」の意義
毎年150本前後集まる応募は、地方の情報発信に対する熱量の高さを示します。
特に面白いのは「日常の業務」をコンテンツ化する視点です。
消防訓練、道路補修、学校給食づくり、図書館の裏側…
これらは普通なら“当たり前すぎてニュースにならない”ものですが、地域住民にとっては「知りたかったこと」であり、新たな信頼を生む資源になります。
“地味な日常の再発見”が、動画によって価値に変わる。
この視点が極めて現代的です。
4. 言語を使わない映像の力
アンコウをさばき、刺身にするまでを“音だけで見せる”という演出は、観光PRの枠を超えたクリエイティブな映像表現です。
・グローバル視聴に対応
・説明より体験の共有へ
・食文化の「職人の音」を伝える
特に“音”が主役という点は、ショート動画時代の美学・没入感 をうまく取り入れています。
地方発の動画が“ただの情報”ではなく、“見たいコンテンツ”へ進化している象徴と言えます。

5. 「今」の共有がもつ意味
被災地の「今」をショート動画で発信する意義は非常に大きいです。
復興の様子は日々刻々と変化するため、従来の月報・広報誌では追いつきません。
短い動画は:
・現場のスピードに対応
・被災者・支援者・外部の人の理解を深める
・“見守り”の連帯感を作り出す
また、自治体ではなくクリエーター本人のアカウントから発信するという工夫は、SNS時代の視聴動線を深く理解した戦略といえます。
6. 感想
この番組の素晴らしさは、単に“動画活用は便利です”という紹介にとどまらず、動画が地域社会にもたらす 構造的な変化 をしっかり指摘している点です。
また、自治体広報が“透明性と信頼のメディア”に変わりつつあることを実感させてくれます。
とくに、日常業務の映像化が「地域への愛着」や「行政への理解」を育てるという点に、深い可能性を感じました。
さらに素晴らしいのは、動画の活用が“地域の声を届ける一方通行の広報”ではなく、“地域と自治体がつながり続ける関係性”を作る道具になっていることです。
