「秋を感じるモズの高鳴き」堀江明香(大阪市立自然史博物館外来研究員) ラジオ番組「マイあさ!」いきものいろいろ (NHK) を聞いて
2025年11月22日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」いきものいろいろ「秋を感じるモズの高鳴き」堀江明香(大阪市立自然史博物館外来研究員)を聞きました。

1.秋に戻ってくる「高鳴き」は、ただの鳴き声ではない
モズのキーキーという鋭い声は、単なる“季節の到来を知らせる音風景”ではなく、縄張り宣言という社会的なメッセージであることが示されます。
鳥の声が“環境の背景音”ではなく個体の意思がこもった行動として立ち現れるところに、季節感の奥行きが生まれます。
2. オス・メスが「別々に暮らす」という珍しい習性
番組が面白いのは、モズが秋から冬にかけてオス・メスが完全に別々の縄張りをもつという解説です。
多くの鳥は繁殖期以外は緩やかな群れを作るのに、モズは厳格に領域を分ける。それが1月の再会(求愛)へ向けた緊張感を生み出しています。
3.「はやにえ」は冬を生き抜く知恵
小枝に獲物を刺す“はやにえ”は、しばしば怪奇なイメージで語られますが、堀江氏はこれを生存戦略であり、求愛戦略でもあると位置付けています。
・晩秋〜初冬:貯蔵のピーク
・冬最深期の1月:最も食べられる
つまり、はやにえはモズの冬越しの冷蔵庫であり、同時にオスの体力(=歌の速さ)を支える栄養源にもなる。この二重の意味の説明が秀逸です。
4.「歌の速さ」は健康状態のシグナル
モズの魅力は鳴き声にもありますが、ここで堀江氏が指摘するのは“スピード”が重要な性選択の指標になるという点。
早く歌える → 栄養が十分 → 体力がある
だからメスは速く歌うオスを選ぶ。
自然界では、派手な色や大きな尾などが選択されることが多いですが、モズでは「声の速度」という非視覚的な魅力が進化した。
この説明は非常に分かりやすく、興味を引きます。
5. 冬の1月へ向かって物語が繋がる
番組の構成は実に巧みで、秋の高鳴き → はやにえ → 栄養状態 → 声の速さ → つがい形成
という流れが一本の物語として繋がっているのです。
モズが「秋の鳥」として始まりながら、最後には「初春の恋の鳥」になっていく。
その季節の連続性を感じさせる点が、番組の大きな魅力です。

6. 感想
単に知識を並べるのではなく、高鳴きの背景にあるモズの“生活史”が丁寧に描かれています。
読者(聴者)は、秋の景色を思い浮かべながらその音に隠れた意味を深く理解できます。
はやにえ・高鳴き・縄張りという具体的な場面が多く、聴き手は“映像を見ているように”理解できます。
科学解説でありながら詩的・情景的な豊かさを保っている点が評価できます。
番組を聞く前は、モズの声は「秋の風景の一部」としか感じていなかったかもしれません。
しかし、そこには冬を越え、つがいをつくるための張りつめた緊張がある。
季節の音に“生きるための意思”が宿る瞬間を教えてくれたように思います。
はやにえ=残酷という表現はよく見かけますが、今回の説明ではそれが求愛行動を支えるエネルギー源であることが分かり、モズの世界への理解が一段深まりました。
1月の寒い空の下で、はやにえを食べたオスが早口でさえずり、メスがそれを選ぶ。
この季節のストーリーが美しく、胸に響きます。
堀江氏の語りは、科学的でありながら温かい。
日常でモズを見かける瞬間小さなドラマの入り口に変わるような、そんな優しい力を持っています。
