《「100年学校」に見るシニアの関係づくり》山崎亮(コミュニティーデザイナー) ラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz(NHK) を聞いて
2025年11月25日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz《「100年学校」に見るシニアの関係づくり》山崎亮(コミュニティーデザイナー)を聞きました。

1.「人生100年時代」の前提を“身体感覚”から捉えている点
山崎亮さんは、人生100年時代を単なるスローガンとして語るのではなく、「70歳以上の日常徒歩圏は500m」という、身体的制約のあるリアルな基点から語っています。
行動範囲が狭くなる結果として、社会的孤立も起きやすい。
しかし、範囲が狭いからこそ“近所”が重要になる。
ここから導かれるのは、「遠くの理想より、近くの現実に根ざす関係づくり」という極めて実践的な視点です。
2.“面識経済”という概念の再評価
「面識経済」は、都市化やデジタル化が進むほど忘れられがちですが、山崎氏はこれを「地域循環の核心」として再提示しています。
・顔の見える買い物は、地域内でお金が循環する
・相互に“気にかけ合う”関係が自然に生まれる
・小規模な経済活動が、地域の活力と心理的安全をもたらす
ここで重要なのは、経済だけでなく、人と人が「気にとめ合う」日常の再生という意味を含んでいる点です。
3.「百年デザイン学校」のアプローチの秀逸さ
この学校の手法が非常に面白く、かつ本質的です。
・受講者自身が「誰と」「何を」「どうやって関わったか」を語る
・身近な成功体験を共有し合う
・それにより「関係づくりは難しくない」という気づきが生まれる
つまり、「専門家が理論を押し付ける講義形式」ではなく、“参加者の生活そのもの”を教材化しているということです。
これは地域デザインの現場で最も効果の高いアプローチです。
4.「梅仕事」のエピソードに現れる“関係の自生”
梅仕事の話は、シニアの関係づくりの縮図として非常に優れています。
・Aさんの「梅仕事が好き」という個人的な興味
・幼なじみのBさんの庭に梅の木
・「梅、ちょうだい」の一言から始まる再接続
・できたジャムを配る → 共感する人が増えていく
・最初は1対1の関係が、第二、第三の人へと自然に広がるここにあるのは、「計画されたコミュニティ」ではなく、“楽しみを核にした自生的コミュニティ”です。
シニアの関係づくりは、実は「楽しみ」から始まるという本質を体現しています。
5.「まず自分が楽しいと思えることをする」の重要性
この言葉は、孤立を防ぐ上で非常に大切な視点です。
・無理して他人に合わせない
・使命感より、好奇心を優先
・自分の楽しみは、結果として誰かの喜びにつながる
高齢期になると、「誰の役に立つか」よりも、「自分が“生き生きできる場”を持つこと」が圧倒的に重要
であることを、番組は柔らかく示しています。

6.「おもちゃ修理ボランティア」の示す意味
おもちゃ修理ボランティアの見学は、次の視点を示唆します。
・無償だからこそ純粋な“好意の交換”が生まれる
・技術や経験が地域で再活用される
・大人同士だけでなく、親子や子どもとの関係も生まれる
つまり、シニアの技能が「地域の未来世代」に橋渡しされる場でもあるのです。
感想
この放送には、「シニアが社会と再びつながるための優しい地図」のようなものが描かれていると感じました。
特に梅仕事のエピソードは象徴的で、地域の関係性は行政の政策や大きなプランからではなく、“小さな好き”や“個人的な楽しみ”が起点になるという事実を思い出させてくれます。
また、面識経済の話は、高度にデジタル化した現代において逆に新鮮で、顔の見える関係が人の安心や幸福に直結することを示しています。
番組全体を通して、「老いていくことは孤立ではなく、むしろ“近くの人とゆっくりつながり直すチャンス”である」という希望が丁寧に込められていました。
聴き終えた後には、“やってみたい小さなこと”を一つ思い浮かべたくなる温かさが残る、とても良質な内容だったと思います。

