《台湾で実施された「現金給付」》早田健文(台湾・台北/ジャーナリスト) ラジオ番組「海外マイあさだより」(NHK) を聞いて

2025年11月22日に放送されたラジオ番組「海外マイあさだより」《台湾で実施された「現金給付」》早田健文(台湾・台北/ジャーナリスト)を聞きました。 

1.台湾の「一律給付金」の政治的意味
今回の給付金は、単なる家計支援ではなく、「追加関税(トランプ政権による対中圧力の巻き添え)」というショックへの国家的対応である点が極めて重要です。

台湾は日本や韓国以上に高い関税圧力を受けており、製造業依存度の高い台湾経済では、企業収益・雇用・消費まで一気に波及する構造的リスクが存在します。
そのため、議会も与野党一致で迅速に可決したという背景には、
・政争を超えた「国民生活の底割れ回避」
・政治的正統性の確保(政府の対応能力の示威)
・台湾社会に特徴的な“スピード感のある行政運営”
という台湾特有の政治文化が見えます。
この「すんなり通った」という描写は、台湾政治の“合意形成力”を象徴しており、日本の政治過程と比較すると、非常に対照的で示唆的です。

2. 所得制限なしの一律給付という政策決定の合理性
所得制限をつけなかった点には、以下のメリットがあります。
・行政コストが低い(迅速な給付が可能)
・社会的な分断を生みづらい
・消費喚起効果が高い(高所得層も一定の消費を喚起)
・「公平性」の感覚を尊重しやすい
台湾は日本よりデジタル行政が進んでいるため、「一律給付+オンライン登録」で問題なく運用できるという自信も背景にあります。
とくに注目すべきは、外国人も給付対象に含めた点。
これは台湾社会が労働市場の外部人材に依存している現実を反映しており、社会全体の一体感や経済循環を重視する姿勢が読み取れます。

3. IDカードと健康保険カードによる登録システム
台湾の住民は、
・IDカード(紙)
・健康保険カード(IC)
という2種類の番号を使ってオンライン登録する方式が採用されています。
番号によって登録日を分散させる仕組みは、日本のマイナポイント事業や給付関連のアクセス集中トラブルと比べると、「混雑対策に非常に周到」という好例と言えます。
登録後3日で振り込みというスピードは、台湾のデジタルガバナンスの成熟度をよく示しています。

4. GDP押し上げ効果の評価視点
「GDPを0.25〜0.5%押し上げる」という推計は、台湾の経済規模からすると非常に大きい数字です。
財政政策としては明確に “効く” 類型であり、以下の点で成功確率が高い施策と言えます。
・給付額が比較的大きい(5万円)
・ほぼ全住民が対象
・給付スピードが速い
・台湾は消費性向が比較的高い
つまり、“景気刺激”としての質が高い給付金と言えるのです。

5. 感想
NHKの本レポートは、台湾の経済安全保障的な文脈を丁寧に織り込み、単なる給付金の話に終わらせていません。
ID番号・健康保険カード番号・オンライン登録・指定日登録など、具体的なプロセスを描写しており、日本で暮らすリスナーにとって非常に比較しやすい情報です。
「外国人も受給できる」という台湾社会の包摂性を明確に語っている点が良い。
移民・外国人労働者を排除しない政策姿勢は現代社会の包摂性議論にも通じ、社会的成熟を感じさせます。 
給付金政策の“結果予測”に触れていることで、単なる制度説明ではなく、経済政策としての位置づけが理解しやすい構成になっています。
特に、「ネットではありがたい金額という声」という部分には、生活者の実感と政策の距離が見え、現場に立つジャーナリストらしい視点でした。

台湾の政策運営の柔軟さと迅速さは、人口減少・物価上昇・外圧に直面する日本にとっても、ひとつの示唆的な“比較鏡”になると感じました。