《COP30開幕「省エネ住宅」とは》林久美子(国際部記者) ラジオ番組「マイあさ! 」(NHK) を聞いて

2025年11月13日に放送されたラジオ番組「マイあさ! 」《COP30開幕「省エネ住宅」とは》林久美子(国際部記者)を聞きました。

1.COP30と「省エネ住宅」議論の接続性の高さ
今回の番組は、気候変動対策の国際会議(COP30)を背景に、日本の住宅分野が抱える課題と可能性を紹介しています。
特に「適応」と「緩和」という気候政策の二本柱のうち、市民生活に直結する“適応策”としての住宅性能向上を丁寧に取り上げている点が非常に意義深いといえます。
COPの議題はしばしば抽象化されがちですが、住宅という“生活の最小単位”に視点を戻し、「暑さ・寒さから命を守る住まい」という身近さで再定義している点に、記者の構成力が光ります。

2. パッシブハウスの原理を丁寧に噛み砕いて紹介している
パッシブハウスの説明は本来専門的で、気密・断熱の数値基準、窓の熱貫流率、自然エネルギーの利用など多岐にわたります。
しかし番組では、「太陽光や風など、自然環境を“受け身”で活かす住宅」という端的な表現を起点にして、技術の核心(断熱材・高性能窓・換気システムなど)をわかりやすく整理していました。
特に、実際に現場で気密性能を測定する、年間の冷暖房消費を定量評価する、といった“認定方法の客観性”が入っており、単なる理想論ではないことを示している点が評価できます。

3. 実例紹介が非常に強い説得力を持つ
軽井沢の見学会の具体例——
外気13度で、室内23度(無暖房)というのは、数字として強いインパクトがあります。
40坪(80畳)ほどの家全体を、「家庭用60畳エアコン 1台分」程度のエネルギーで運用可能という例も、「パッシブハウス=贅沢・特殊」という誤解を払拭し、「むしろ省エネ設備の“究極の合理化”」という印象をもたらしています。
さらに、夏場の熱中症、冬場のヒートショック、といった日本独特の健康リスクにも触れ、住宅性能が“健康政策そのもの”であるという重要な視点を浮かび上がらせました。

4. 最大の課題:建設コストの高さを正面から扱っている
10〜15%のコスト増は、一般の新築住宅においては決して無視できません。
番組の優れた点は、メリットだけでなく、普及の“壁”も誠実に提示しているところです。
しかし、その課題を単なる問題として終わらせず、助教授・工務店・建材メーカー・自治体が連携し、賃貸住宅でも普及可能なモデルづくりを進めているという“出口”まで示しているため、聴き手に希望と実現性を感じさせます。
賃貸への普及は、若者・低所得者層・転勤族など「持ち家ではない生活者」にとってもメリットが広がる点で、社会的包摂の観点からも重要です。

5. 感想
今回の番組は、「気候変動=遠いテーマ」と考えがちな人に対して、“毎日の暮らしの中でできる最大級の気候対策は住宅である”という強いメッセージを自然に伝えてくれました。

軽井沢の見学会の描写は臨場感があり、“冷暖房なしで23度の家”という未来像は、むしろ“昔の日本家屋よりも自然と調和した住まい”と感じられ、未来が過度に人工的になるという不安も払拭してくれます。

さらに、健康リスクの低減を示したところは、高齢者世帯の多い日本において非常に重要な視点です。
特にあなたのように「地域社会」「高齢者の生活」「健康と住まい」に関心をお持ちの方には、住宅性能向上が地域福祉・生活支援の文脈でも語れると感じられたはずです。

COP30を前に、“住宅性能は環境政策であり、医療政策であり、生活政策である”という総合的な視点が伝わる、大変優れた番組でした。