「米中首脳会談から読み取れること」津上俊哉(日本国際問題研究所) ラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz (NHK) を聞いて

2025年11月19日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz「米中首脳会談から読み取れること」津上俊哉(日本国際問題研究所)を聞きました。
1.トランプ政権と中国の「応酬の構図」
番組は、アメリカのトランプ政権が「関税引き上げで中国経済を屈服させよう」とした思惑と、その読みが外れた経緯を明確に描いています。
中国は「目には目を、歯には歯を」と対抗措置を取り続け、単なる貿易摩擦ではなく、国家の尊厳をかけた長期的な対抗構造を形成しました。
この点は、経済制裁を政治的手段として使うアメリカのリスクを浮き彫りにしており、国際政治のリアリズムをよく示しています。
2. レアアースと安全保障の連動
レアアースは単なる鉱物資源ではなく、軍需産業と直結する戦略資源であるという指摘が核心的です。
中国が輸出制限を行えば、アメリカの軍需生産やハイテク産業が直撃を受ける。
ここには「経済戦争」と「安全保障の結びつき」の現代的特徴が凝縮されています。
また、番組が「西側諸国が中国依存から脱するには5〜10年かかる」と指摘した点は、国際供給網の硬直性と時間的制約を見事に言い表しています。
3. 交渉の駆け引きと信頼の揺らぎ
9月の事前会談で「お互いに不利益な行動を控える」と合意していながら、実際には両国とも制裁措置を強化していたことは、外交における信頼の脆さを示しています。
それでも結果的に「一年間の猶予」という形で一時的な緊張緩和に至った点は、現実主義的な妥協の象徴とも言えます。

4. 感想
来年のトランプ訪中、習近平訪米という相互訪問スケジュールは、激しい対立の中にも「対話の窓口」を閉ざさない両国の計算を感じさせます。
つまり、全面的な協調ではなく、「冷たい安定」のような関係が続くことを示唆しています。
津上俊哉氏の分析は、単なるニュース解説にとどまらず、国際経済・安全保障・外交戦略の三位一体的な視点を持っています。
特に、中国のレアアース規制強化策やアメリカのブラックリスト拡大策など具体的な政策手段を通じて、国家間競争の現実的な「経済安全保障時代」を明確に描いています。
この放送を通じて、米中関係はもはや単なる経済摩擦ではなく、「技術と資源、そして信頼の覇権争い」に移っていることを実感しました。
それでも両国が完全な決裂を避け、互いに譲歩を探る姿には、現代外交の「理性の残光」が見えます。
特に印象的なのは、時間という要素の重みです。
西側がレアアース依存を脱するには10年、中国経済が封じ込められないのも同様に時間の力が働く。
結局のところ、世界秩序は「時間を味方につける国」が握るのだと感じさせられました。
