「Z世代 ことしのトレンドまとめ」長田麻衣(SHIBUYA109lab.所長) ラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz(NHK) を聞いて 

2025年11月6日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」マイ!Biz「Z世代 ことしのトレンドまとめ」長田麻衣(SHIBUYA109lab.所長)を聞きました。

1.「クワイエットあげ」に見る“静かな自己回復力”
「クワイエットあげ(Quietあげ)」という言葉には、Z世代特有の繊細で控えめな自己表現が象徴されています。
派手な成功や目立つ幸福ではなく、「静かに、自分のペースで気分を上げる」という姿勢は、コロナ禍後の社会に疲れた若者たちの“回復の文化”を感じさせます。

去年までの「スイッチオフ」傾向(デジタル疲れ・人間関係疲れ)から、今年は「静かにでも前を向く」方向へと進化している点が興味深いです。
この“ささやかなポジティブ”は、経済的にも精神的にも無理をせず、共感と共存を大切にする新しい幸福感の形だといえるでしょう。

2. 「明るくやむ」:ユーモアと自己開示のバランス
「明るくやむ」という表現には、Z世代の成熟した感性と自己防衛の知恵がにじみます。
病み(Yami)というネガティブな感情を、“笑い”や“共感”に変えることで、重さを軽やかにしているのです。

SNSで人気の「都さん」のような存在は、自分の弱さや失敗を“笑える形で共有する”新しいロールモデルです。
彼らは完璧さよりも「不器用で等身大の自分」を肯定し、それが他者の癒しや励ましになっているという点で、個人の傷を“共感の文化資源”に変換する力を持っています。

3.「やみのおねぇさん」:教育番組のパロディが持つ批評性
存在しない“教育番組”を模したSNSコンテンツ「やみのおねぇさん」シリーズは、単なるネタではなく、現代社会の圧力に対する批評的ユーモアを含んでいます。
暗い内容を明るい調子で語る――この「ギャップ表現」は、Z世代が感じる不安や閉塞感をポップに昇華する抵抗のスタイルです。

歌やストーリーが“くらいのに明るい”という構造は、「現実を直視しながらも、希望を失わない」姿勢の象徴。
そこには、彼らの自己表現が社会的メッセージに変わる瞬間が見えます。

4. SNSの“深く、狭く”という人間関係
Z世代のSNS利用が「深く、狭く」になっているという指摘は非常に重要です。
フォロワー数よりも、少数の信頼関係を大切にする傾向は、
デジタル社会における“つながりの質”の再定義といえるでしょう。

彼らは「共感による支え合い」や「弱さの共有」を通じて、“連帯”を実感しようとしている。
この小さな連帯の積み重ねこそ、社会全体の新しい希望につながるものです。

5. 感想
この特集を通して浮かび上がるのは、「明るく、控えめで、繊細な共感の文化」です。
Z世代は、従来の「頑張る」「陽キャでいこう」的な価値観から脱却し、自分の心に正直であること・他者の痛みに敏感であることを美徳としています。

特筆すべきは、そうした価値観を“大きな声で叫ばず、静かに共有する”スタイルにあります。
これは、いわば“静かな文化的革命”とも言えるでしょう。

Z世代のこうした動きは、成熟した個人が集まる社会の礎となるものだと感じました。
派手な自己主張ではなく、傷ついたままでも他者と繋がろうとする優しさが、現代の閉塞感を少しずつ和らげているように思えます。

「クワイエットあげ」や「明るくやむ」のようなキーワードは、単なるトレンドではなく、時代が必要としている心の処方箋なのかもしれません。
これからの社会において、Z世代の感性は“癒しと希望の灯火”となることでしょう。