「中国で広がるコスプレ文化」為井貴規(中国総局記者) ラジオ番組「マイあさ!」ワールドリポート (NHK) を聞いて
2025年11月10日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」ワールドリポート「中国で広がるコスプレ文化」為井貴規(中国総局記者)を聞きました。

1.文化の成熟と多様化が示す社会的変化
この報告は、中国の「二次元文化」すなわちアニメ・マンガ・ゲームなどを中心とする若者文化の成熟と社会的広がりを鮮明に描いています。
市場規模が12兆円に達し、わずか5年で倍増しているという数字は、単なる流行ではなく、新しい文化産業の中核として位置づけられつつあることを示しています。
注目すべきは、かつて日本発の作品が主流だった時代から、中国自身が創作の発信地へと成長している点です。
とくにゲーム分野で世界的ヒットを生み出していることは、クリエイティブ産業における「文化的自立」を象徴しています。
中国社会の中で創作への自己表現欲求が高まり、国家のソフトパワー強化戦略とも自然に結びついているように見えます。
2. コスプレ文化の広がりと“公共空間の文化化”
北京の「二次元ショッピングモール」や、上海の「ビリビリワールド」イベントで3万人以上が集まるという描写は、コスプレが限られたファンの趣味を越え、日常空間に浸透した文化現象になっていることを示しています。
これは単なるファッションや趣味の拡大ではなく、公共空間が「表現の場」として再構築される動きです。
若者たちが自分の好きなキャラクターを通じて自分らしさを可視化する“文化的自己表現”を実践しており、年齢層の広がり(小学生から社会人まで)が、コスプレを世代を超えた共有文化へと発展させています。
さらに、化粧や衣装を安価に委託できる環境が整い、裾野の広い参加を可能にしている点も重要です。
経済的格差に左右されず、多くの人が創作文化を楽しめるインフラが整いつつあると言えるでしょう。
3. 国境を越える共同制作の意義
日中の企業が協力し、日本の小説を中国で漫画化し、両国で同時発表するという事例は、文化交流の新しい形を示しています。政治的関係が揺らぎやすい時期にあっても、作品を介した相互理解と共感が国境を越えることは、文化の力を象徴するエピソードです。
アニメやコスプレといった「サブカルチャー」が、かつての外交や経済の枠を超え、“共感による国際関係”の媒介になっていることは特筆すべき現象です。
互いの文化的感性を尊重し合う中で、創造のエコシステムがグローバルに循環している点は、今後の国際文化戦略における示唆を含みます。

4. 感想
このリポートの魅力は、文化を「経済的数値」ではなく、人々の生き生きとした表現の営みとして描いている点にあります。
若者たちがコスプレを通じて互いに認め合い、創造し、共有する姿には、現代社会に不足しがちなポジティブな共同体感覚が感じられます。
中国の二次元文化は、単なる模倣から脱し、「自国の物語」を語り始めています。
そこには、国や世代を越えてつながるエネルギーと、創作を通じて自分を表現しようとする普遍的な人間の衝動があります。
この放送は、そのダイナミズムを冷静にかつ温かく伝えており、文化報道としての質の高さが際立っています。
日本のアニメ文化が「輸出」ではなく「共創」へと進化しているという点でも、非常に希望に満ちた内容でした。
