「今年度も上振れが予想される税収」永濱利廣(第一生命経済研究所首席エコノミスト) 『マイあさ!』マイ!Biz (NHK) を聞いて
2025年11月3日に放送されたラジオ番組『マイあさ!』マイ!Biz「今年度も上振れが予想される税収」永濱利廣(第一生命経済研究所首席エコノミスト)を聞きました。

1.税収増加の構造的背景
永濱氏の指摘で特に注目すべきは、単なる景気回復による一時的な税収増ではなく、構造的な変化が背景にある点です。
企業が過去の赤字を控除できる「繰越欠損金控除制度」を使う企業が減っており、赤字企業の割合が減少しているというのは、企業収益力の底上げを示します。
これは、長年続いたデフレ経済からの脱却が、ようやく税制データにも反映され始めたことを意味します。
また、物価上昇に伴う名目GDPの拡大効果にも注目しています。
物価が上がることで売上や所得が増え、それが所得税・消費税・法人税すべてを押し上げる。
永濱氏はそれを冷静に評価し、「良いニュースである一方で、取り過ぎの面もある」と両義的に捉えており、バランスの取れた見解です。
2. 財政健全化の側面
借金(国債残高)に対して、名目GDPが増加することで債務比率が14%改善したという点は、非常に重要な事実です。
これは、増税や歳出削減によらず、「経済の名目成長」が財政を改善するという理想的なプロセスが現れている例です。
永濱氏が「純債務ベースで見ると日本はすでにアメリカを下回る」と指摘したのも新鮮です。
多くの報道が「日本の借金は世界最悪」と強調する中で、資産を差し引いた純債務に注目する視点は、冷静で客観的な分析です。
3. 将来に向けた課題認識
一方で、永濱氏は「今後の不透明感」にも慎重な姿勢を示しています。
トランプ政権復帰による関税政策の影響
実質賃金の回復遅れ
家計消費の伸び悩み
これらを挙げることで、税収の“見かけ上の好調”と実質的な国民生活の乖離を冷静に捉えています。
短期的な税収増に浮かれるのではなく、長期的な「成長の質」を問うメッセージが込められています。
4. 政策提言の方向性
永濱氏は、増えた税収を「どう使うか」に焦点を当て、
食料・エネルギーの恒久的減税
設備投資促進のための税制優遇
少子化対策への重点投資
といった成長と福祉の両立を目指す方向性を提示しています。
特に、「増収を単なる歳出拡大ではなく、構造強化のために活かすべき」とする点は、経済の持続可能性を重視する経済学的な観点として高く評価できます。

5. 感想
永濱氏の話を聞いて感じたのは、“税収の増加”が目的ではなく、手段であるという原点の再確認です。
税収が上振れしても、それが「将来世代への投資」や「暮らしの底上げ」に結びつかなければ、本当の意味での豊かさにはならない。
だからこそ、永濱氏が示した「増収の使い道を経済成長に生かすべき」という提言には、深い説得力があります。
また、税収の増加を喜びながらも、「インフレによる名目上の数字」「実質賃金の停滞」「格差の拡大」などのリスクを見落とさず、“統計の裏側”にある生活者の実感を見据えています。
特に、「借金のGDP比が改善しても、家計の可処分所得が改善していない」という対比を浮かび上がらせた点は、経済報道にありがちな数字偏重から一歩抜け出した鋭い洞察です
