「高市新政権の経済・金融政策」小幡績(慶應義塾大学教授) ラジオ番組「マイあさ! 」マイ!Biz (NHK) を聞いて

2025年10月31日に放送されたラジオ番組 「マイあさ! 」マイ!Biz「高市新政権の経済・金融政策」小幡績(慶應義塾大学教授)を聞きました。

1.株価の“ハロウィン・バブル”現象への警鐘
小幡教授は冒頭、株価の動向を「ハロウィンパーティーのよう」と表現し、仮装のように中身が伴っていない浮かれた雰囲気を的確に描写しています。
特に「日経平均は上がっているが、トピックスは上がっていない」という指摘から、実体経済の反映というよりは、特定銘柄への投機的資金流入が相場を押し上げているという現実が見えてきます。

また、アメリカ発のAI・半導体関連株が日本市場にも波及し、本質的には日本企業の業績改善ではなく、グローバルなマネーゲームの副産物である点も指摘。
これにより、「日本株の上昇=日本経済の好転」とは必ずしも言えない現実が浮かび上がります。

2. 日銀の「臆病な政策運営」批判
日銀が金利を上げるべきタイミングで据え置いたという批判も非常に興味深い点です。
小幡氏は、2024年末の「日銀ショック(4400円下落)」に過剰反応してしまった結果として、日銀が市場の“顔色をうかがう”存在になってしまったと論じています。

本来の中央銀行の使命は「物価の安定」や「金融システムの健全性」であり、市場受けを気にして判断を先送りするようでは、その信頼性に疑問が生じるという点は、健全な金融ガバナンスへの警告として評価できます。

3.「財政出動」や「金融緩和」への懐疑
小幡氏は、高市早苗政権の従来の主張である「大胆な財政出動・お金のばらまき」に対して、強い否定的立場を取っています。
特に印象的なのは、「マイナス100点」という辛辣な表現で、インフレ期における過度な需要刺激策が、むしろ逆効果になるという教科書的かつ実証的な警告です。

物価高の主因が「輸入インフレ」や「コストプッシュ要因」であるにもかかわらず、需要側に刺激を与える政策では、物価上昇をさらに加速させるだけで実質賃金の低下を招くと、冷静な指摘がなされています。

4. アベノミクスへの総括と連続性の批判
アベノミクスの「副作用」への評価も見逃せません。
小幡氏は、金融緩和と円安によって一時的に株価が上がったものの、実質的な家計の購買力や構造的成長力の改善にはつながらなかった点を問題視しています。
その流れを汲む高市政権が、同様の道を歩もうとしていることに対し、歴史に学んでいない政策であるという批判がこめられています。

5. 感想
株価、金利、物価、為替という一見複雑な金融要素を、「ハロウィンパーティー」や「臆病な日銀」など、比喩や具体例でわかりやすく伝える小幡氏の語り口は、聴衆への理解促進に大きく貢献しています。

小幡氏は、高市氏が「勇ましい言説」によって政治的立場を確保していると認めつつも、「総理になったら現実的な修正をするだろう」とも述べています。
これは、政治家の“選挙用言説”と“政権運営の現実”を冷静に分けて評価する知性が感じられる点です。

今回のコメントからは、「浮かれた相場」に対する深い警戒心と、「現実主義に立脚した政策修正」を促す知的誠実さがにじみ出ていました。
とくに「インフレ+人手不足+株高」という一見良好な景況感に対し、それが構造的な成長の裏付けなしに成立している危うさを的確に指摘する姿勢は、政治経済の深層を読み解くうえで非常に示唆に富んでいます。

今後の高市政権がどこまで「現実」と「勇ましさ」をバランスよく折り合わせるか。
小幡氏の視点を手がかりに、私たちも政策の本質を見極める目を養いたいと感じました。