「首里城のお話」伊敷聡子(那覇市) ラジオ深夜便〔日本列島くらしのたより〕(NHK) を聞いて
2025年11月2日に放送されたラジオ番組 ラジオ深夜便 〔日本列島くらしのたより〕「首里城のお話」伊敷聡子(那覇市)を聞きました。

1.首里城再建の進捗と構造の変化
番組では、6年前の火災で焼失した首里城の再建が進み、ついに正殿が姿を現したことが報告されます。
これまで建設作業用に組まれていた素屋根(仮設構造物)が撤去され、フロアごとの見学では見えなかった正殿全体の姿が、ついに市民の目の前に現れました。
この「お帰りなさい」という感情の表現に、首里城が沖縄の人々にとってどれほど深い精神的象徴であるかが如実に現れています。
2. 有料エリアでの感動体験
正殿があるのは有料エリア。
入った瞬間に目に入ったのが、赤瓦屋根と屋根上の龍の装飾。
その美しさに「涙が出そうになった」という伊敷さんの言葉は、単なる建築物を越えた文化的・心情的な再会を物語っています。
龍の装飾は中国的な影響を色濃く残す琉球王朝の象徴的意匠でもあり、視覚的インパクトと精神的高揚が見事に結びついた瞬間です。
3. 復元の深化 ― 平成から令和へ
1992年に復元された火災前の正殿は、限られた資料と時間の中での復元だったのに対し、今回の再建はより本格的かつ歴史的考証に基づいた復元がなされています。
具体的には、
瓦の文様の変化
彫刻の文様の違い
顔料の違い(市販→地元産)
といった細部へのこだわりが、より「琉球王国時代の首里城」に近づけようとする努力として描かれます。
特にベンガラ(赤色顔料)について、令和の復元では沖縄本島北部の弁柄を使用しており、古文書に記された材料をもとに復元が行われている点は、地域資源の活用と歴史的継承の実践として高く評価できます。

4.感想
伊敷聡子さんの語りは、単なるレポートではなく、那覇市民の感情そのものを代弁しています。
「涙が出そうになった」「お帰りなさい」という表現は、歴史遺産が人々の心とどれほど深く結びついているかを示すものであり、記憶と建築の結びつきを浮き彫りにしています。
平成の復元と令和の再建との違いを対比的に語ることで、時代を超えた復元の深化が示されます。
復元は「過去に戻る」のではなく、「過去と対話しながら未来に向かう」行為であるという本質が、伊敷さんの語りから自然に浮かび上がります。
首里城再建の過程は、単に「建物を元に戻す」だけでなく、火災という喪失体験から地域の誇りを再生するプロセスとして描かれます。
再建を通じて「深みのある赤」「地域の顔料」「龍の飾り」が人々の心に再び火を灯す。
それは文化と人のつながりが、時間を超えて再び生まれる瞬間です。
