「学校を揺るがす“カスハラ” 先生と保護者の関係をどう築く?」鈴木彰典(学校リスクマネジメント推進機構 元公立中学校校長) ラジオ番組「マイあさ!」けさの“聞きたい”を聞いて
2025年10月28日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」けさの“聞きたい”「学校を揺るがす“カスハラ” 先生と保護者の関係をどう築く?」鈴木彰典(学校リスクマネジメント推進機構 元公立中学校校長)を聞きました。

1.「カスハラ」の現状と学校現場の深刻化
鈴木氏は、保護者から教職員への過剰な要求や威圧的な態度、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が、学校という教育機関の運営に深刻な影響を与えている実態を明らかにしました。特に、
発達障害の可能性がある児童への配慮と指導が、保護者に体罰と誤解される
子供同士の問題が解決していても、保護者の納得が得られず無理難題を押しつけてくる
教職員への名誉毀損や深夜の連絡など、明らかな嫌がらせ行為
といった事例が紹介され、教育現場における理不尽な“圧力”の多様化と常態化が浮き彫りになっています。
特筆すべきは、こうした行為が単なる個別対応の困難にとどまらず、学校の運営全体、教員のメンタルヘルス、子どもたちへの影響に波及しているという点です。
2. 問題の根源にある「線引きの難しさ」と「情報の非対称性」
鈴木氏が指摘したように、保護者の訴えが「正当な苦情」なのか「ハラスメント」なのかを判断するのは極めて難しく、また、
子供の言い分だけを100%信じたい保護者の心理
教員側の説明不足・初動の不適切さ
といった情報の非対称性が、小さな誤解を大きな対立へと発展させてしまうことがよくわかります。
特に、担任が一人で抱え込むことが問題をこじらせ、学校全体の信頼を損なう事態につながる点は、現場感のある重要な指摘です。
3. 有効な対応策と予防策の提示
鈴木氏は、単なる批判ではなく、具体的な改善策を提示している点がこの講話の大きな価値です。
初期対応は必ず複数で(管理職を含める)
「担任一人に抱え込ませない」体制づくり
記録を残す(日時・内容・対応者)
専門機関との連携(警察、法律、医療、福祉)
平時からの保護者との信頼関係の構築
子どもの良いところを日常的に伝えるポジティブ・フィードバック
児童アンケートや相談機会の定期的実施
これらは、現場のリアリティを踏まえた、実行可能性の高いアプローチであり、予防的・協働的な関係構築の実践例として高く評価されます。

感想
この放送の最大の意義は、「カスハラ」という言葉に象徴される社会課題を、一方的な加害者・被害者の枠にとどめず、構造的かつ協働的な視点から整理している点にあります。
鈴木氏の発言は、現場の声をそのまま伝えるだけでなく、「保護者もまた不安や孤独のなかで“過剰”になることがある」という視点も内包しており、決して対立構造に陥っていません。
また、「先生が一人で抱え込まないようにする」という構造的支援の必要性を強調したことは、教育機関の組織的体制の見直しにもつながる、建設的な提言でした。
何より、「子どもの良さを普段から伝える」「困っている子を見逃さない体制をつくる」といった、教育の本質に立ち返る姿勢が終始貫かれていた点に、深い感銘を受けました。
この放送は、「教育現場における困難な現実」と「それに立ち向かうための知恵と工夫」が凝縮された内容であり、すべての教育関係者と保護者にとっての“共通の課題”と“共通の責任”を考えさせられる機会になったと感じました。
保護者と教師は「対立する存在」ではなく、「子どもの成長を支えるパートナー」である——その理想をどのように具体的な行動で体現していけるか。
現場の実情を知る者の語りだからこそ、多くの人の心に響くメッセージだったと思います。
