「抗議活動のシンボルとして広まる“麦わらの一味”の海賊旗」浅野素女(フランス・パリ、ジャーナリスト) ラジオ番組「マイあさ!」海外マイあさだより(NHK) を聞いて
2025年11月8日に放送されたラジオ番組「マイあさ!」海外マイあさだより「抗議活動のシンボルとして広まる“麦わらの一味”の海賊旗」浅野素女(フランス・パリ、ジャーナリスト)を聞きました。

1.グローバルな若者の連帯と「ワンピース」的価値観の共有
報告の中で特に印象的なのは、「麦わらの一味」の旗がアジア・アフリカ・南米など世界各地で抗議活動の象徴として掲げられているという現象です。
これは、単なる「日本漫画の人気」ではなく、“自由・仲間・反権力”というワンピースの根底に流れる価値観が、国や宗教、言語を超えて共感を呼んでいることを示しています。
ルフィたちが「理不尽な世界政府」に抗う姿は、権力の腐敗や社会的不平等に直面する若者たちにとって、まさに自分たちの心情の代弁となっているのです。
2. Z世代の政治的覚醒と“自然なシンボル化”
浅野氏は、Z世代の若者たちが「ワンピースとともに育った世代」であることを指摘します。
彼らにとってルフィは“架空のヒーロー”ではなく、“同世代の仲間”のような存在です。
したがって、彼らが抗議の場で麦わらの旗を掲げるのは、戦略的なシンボル操作ではなく、心からの自己表現です。
この「自然発生的な政治意識の形成」こそが、従来のイデオロギー主導の運動とは一線を画す、新しい社会運動の特徴といえるでしょう。
3. 抗議の「非組織性」と「倫理的純粋さ」
従来のデモや革命は政党や労働組合に支えられていましたが、ここで描かれる抗議活動はSNSを通じて自発的に拡散し、指導者不在で形成されたネットワーク型運動です。
彼らは「権力を奪う」ことを目的とせず、「民主主義的に当然の権利を求める」ことを目的としている。
この姿勢には、個人の尊厳を守るという倫理的な純粋さが感じられます。
まさにルフィたちが「自分たちの仲間と信念のためだけに戦う」姿勢と重なります。
4. 貧困と閉塞感という共通の背景
モロッコやマダガスカルの例に見られるように、抗議の根底には極度の貧困と政府への不信があります。
公共サービスの欠如や政府の政策の優先順位の誤りに対する怒りが、若者の「希望を奪う政治への拒絶」として噴出しているのです。
このような社会的背景を丁寧に紹介することで、浅野氏は「麦わら旗」の象徴的な意味が単なる文化的偶然ではなく、現実の苦しみから生まれた切実な叫びであることを浮かび上がらせています。

5. 感想
「麦わらの旗」が政治的象徴になるというニュースは一見奇異に思えますが、それは現代の若者が言葉よりも感情や物語を通じて共感する時代を象徴していると感じました。
若者たちは、ルフィたちの冒険から、「不正を許さない意志、権力者を恐れず立ち向かう勇気、変化を求めて明るく前向きに行動するパワー」を学びました。
ルフィたちの冒険は、彼らの国の貧困や抑圧の現実とリンクするものがあり、“仲間とともに生きる自由”という普遍的な理想が、世界の若者の心を結びつけているのです。
浅野氏の報告は、文化が政治を変える可能性を示す希望の物語でもありました。
「麦わらの一味」は、フィクションを超えて今や現代の自由の象徴となっている――その現実を静かに伝えるこの報告は、NHK海外リポートの中でも際立つ洞察をもつ一編です。
