「展望・米国労働市場」武田洋子(三菱総合研究所常務研究理事) ラジオ番組『マイあさ!』マイ!Biz (NHK) を聞いて

2025年10月27日に放送されたラジオ番組『マイあさ!』マイ!Biz「展望・米国労働市場」武田洋子(三菱総合研究所常務研究理事)を聞きました。

1.トランプ関税と雇用需要の縮小
企業の20%が関税を理由に採用計画を減らしているという具体的データを挙げ、関税が「国内産業保護」ではなく「企業負担増」となっている現実を明確に示しました。
「関税コストの7割を米国企業が負担」という指摘は、政策の逆効果を経済的視点で見抜く洞察です。
結果として、販売価格への転嫁 → 消費抑制 → 雇用抑制という悪循環を予見しており、景気の表面上の堅調さとその下に潜むリスクを両立して語っています。

2. 移民政策と労働供給の制約
移民の流入制限・強制送還策によって、建設・農業・サービスなど現場労働が支えられなくなる構造を指摘しています。
この視点は単なる「統計解釈」ではなく、人の移動が経済を支えているという現実的な人間主義的視点を内包しています。

3. AI普及と雇用の質的変化
「AI失業」という言葉を単なる恐怖としてではなく、職種別・年代別に分析している点が非常に優れています。
ソフトウェア開発やカスタマーサービスで「30代以上の雇用増/若年層の雇用減」という対照的な結果を挙げ、経験と判断が求められる領域はAIでは代替しにくいと論証しています。
生成AIが得意な情報処理・コード作成業務が若年層に偏っていたという構造的課題を見抜き、単なる“技術の進化”ではなく“職能の再定義”が必要だと提起している点に知的深みがあります。

4. 感想
武田氏の分析の特長は、マクロ経済とミクロ労働市場を同一視座で統合的に見ていることです。
「関税・移民・AI」という一見異なる3つの要素を「労働需要」「労働供給」「技術代替」という枠で整理し、極めてロジカルに展望を描き出しています。

特筆すべきは、単なる警鐘にとどまらず「日本への含意」を明示している点です。
つまり、最後の締めくくりにあった、
「日本は人手不足をAIで補うべき」
「人でなければできないスキルの強化」
「セーフティネットの再構築」
という提言は、まさに超高齢化社会・少子化先進国である日本が直面する課題に対する明快なメッセージです。
「AIによる雇用削減」ではなく、「AI活用による持続的な成長と包摂的雇用」という未来志向の視点が力強く、希望的でもあります。
この放送は、米国の雇用統計をもとにしながらも、根底には「技術と人間の共生」という普遍的テーマが流れています。

武田氏の語り口は、データに裏付けられた冷静さと同時に、人間労働への深い敬意に満ちています。
単に「雇用減少」ではなく、「人が成長し続けることでAI時代を生き抜く」未来像を提示しており、リスナーに“希望を伴うリアリズム”を感じさせます。