「Z世代の抗議デモ」味田村 太郎(アジア総局長) ラジオ番組 マイあさ! ワールドリポート (NHK) を聞いて
2025年10月27日に放送されたラジオ番組 マイあさ! ワールドリポート「Z世代の抗議デモ」味田村 太郎(アジア総局長)を聞きました。

1.内容の要約と背景
番組では、アジアやアフリカを中心に広がるZ世代(1990年代後半〜2010年前後生まれ)の抗議運動を取り上げていました。
テーマの核心は、「既得権益と不平等に対する若者の怒りが、デジタルネットワークを通じてグローバルに連鎖している」という現象です。
バングラデシュでは、公務員採用の特別枠に対する不満が爆発し、15年続いた政権を崩壊させるに至った。
その影響は、ネパール・インドネシア・フィリピンといった近隣諸国、さらにはモロッコやマダガスカルといったアフリカ諸国にも波及。
抗議参加者は「運動家」ではなく、普通の若者たち。
彼らはSNSで連帯し、日本の漫画『ONE PIECE』の“海賊旗”を自由の象徴として掲げている。
番組の結びでは、アジア各国で総選挙を控える中、こうした若者の声が「民主的変革の新たな原動力」となる可能性に言及していました。
2. Z世代の抗議文化と時代精神
①個からネットワークへ ― SNSが作る「共感の共同体」
これまでの社会運動は、組織的・理念的な枠の中で展開されることが多かった。
しかし、Z世代は「共感」と「リアルタイム性」で結ばれている。
彼らにとって抗議行動は“政治活動”というよりも、“生きづらさへのリアクション”であり、「声を上げる」こと自体が自己表現の一形態になっている。
②象徴としての『ONE PIECE』 ― グローバルカルチャーの共有言語
「自由を求める海賊旗」は、単なる日本文化の輸出ではなく、抑圧と闘う希望のアイコンとして世界中の若者の共感を呼んでいる。
それは、Z世代が共有する「物語による抵抗」の象徴ともいえる。
政治的スローガンよりも、物語的アイデンティティが共感を喚起している点が興味深い。
③社会構造的要因 ― 格差・失業・腐敗への閉塞感
多くの新興国では、経済成長の恩恵が上層に集中し、若者は将来展望を描けない。
Z世代の抗議は、単なる感情的爆発ではなく、構造的不平等への理性的な異議申し立てでもある。
彼らの「怒り」は、民主主義の再生を促す健全なエネルギーと捉えるべきだろう。

3. 感想
味田記者は、アジアからアフリカまでを縦断的に見渡し、「Z世代の反乱」という共通軸で現象を捉えた。
これは単なるニュース紹介ではなく、時代潮流を可視化した構造的報道といえる。
『ONE PIECE』を引用した部分は、社会学的にも極めて示唆的。
政治報道にエンターテインメント文化を重ねることで、グローバル世代の価値観の変容をわかりやすく伝えていた。
「選挙を通じた変革」という締めくくりは、混乱の連鎖を悲観的に描くのではなく、若者のエネルギーを建設的な方向へ導く希望的視点として秀逸だった。
この報告を聞きながら、私は「Z世代の怒り」が単なる破壊衝動ではなく、“新しい公共性を求める衝動”であることを強く感じました。
インターネットでつながった彼らは、国境や宗教を超えて「不正に対する嫌悪」という倫理を共有している。
それは、かつてのイデオロギー主導の革命とは異なり、共感と倫理に根ざしたムーブメントです。
また、『ONE PIECE』の海賊旗が自由の象徴として翻る映像を想像するとき、アニメ文化が“抵抗の詩学”として機能している現実に、文化の力の奥深さを改めて実感します。
政治的抑圧に立ち向かうための「物語」が、いまや世界共通の言語になっているのです。
