「コメの価格と増産の課題」盛田清秀(元・東北大学教授) ラジオ番組「マイあさ! 」けさの聞きたい (NHK) を聞いて

2025年10月21日に放送されたラジオ番組 マイあさ!  けさの聞きたい「コメの価格と増産の課題」盛田清秀(元・東北大学教授)を聞きました。

1.米価の高止まりとその要因
番組では、「スーパーでのコメ価格は依然高い」との実感からスタートし、その背景にある要因として以下の点が指摘されています。
備蓄米が市場に出回れば平均価格は下がるが、主力銘柄米はむしろ上昇傾向にある。
米の仕入れ価格が高止まりしており、末端価格に反映されている。
政府による備蓄米の放出が遅れたことで、一時的な供給不安が高まり、小さな“パニック買い”が需給バランスを崩した。
これは、政府の対応の遅れが市場の不安を煽り、価格高騰を招いた典型的な例であり、食料政策の機動性・予測性の重要性を改めて示しています。

2. 今年の作柄と供給状況
今年の収穫量は平年並みで、昨年比で63万t→65万tとやや増加の見通し。
つまり、天候や災害リスクという不確実性はあったものの、数量的には一応の安定が確保されている状況です。
しかしながら、問題は構造的な需給ギャップと備蓄の減少にあります。
備蓄米が30万tまで減少し、「緊急事態対応ができないレベル」にある。
加工用米や飼料用米の減少も示唆されており、多様な用途におけるバランスが崩れている。

3. コメ政策の構造的限界と将来不安
盛田氏の最も重要な指摘は、単なる増産では問題は解決せず、生産・流通・価格・備蓄のすべてを包括する総合政策の必要性です。
消費者には「安定供給」「買いやすい価格」が不可欠。
生産者には「再生産可能な価格保証」「所得補償」が必要。
市場原理に委ねるだけでは限界。
とくに食料安保の観点では脆弱。
生産者は高齢化・離農・担い手不足が進み、毎年数万戸が離農。
これらは、まさに日本の農業政策の根幹に関わる問題であり、「農業を続けたくても続けられない」構造が根底にあるという強いメッセージが込められています。

4. 感想
盛田清秀氏のコメントは、単なる評論ではなく、具体的な数値・制度提案・構造分析を通して、「現場の声」と「国の責任」の両方に鋭く迫る優れた問題提起でした。

たとえば、「米の価格が高いのは仕入れ価格が下がっていないから」「消費者が夏に大量購入してパニックになった」という記述は、供給サイドと消費サイド両面の現実的な動きを理解した上での分析であり、説得力があります。

「市場任せはもう限界」「再生産価格の保証」「直接支払い」などの提言は、ヨーロッパの農業政策(CAP)とも通じる内容であり、市場と政策の適切なハイブリッドを模索する提案と受け取れます。
とりわけ、「備蓄米30万t」「自給率38%」「数万戸の離農」という具体的な数字の提示によって、聞き手は日本の農業の危機を感覚ではなく実感として捉えることができます。

最後に、「生産の継続が危機」「担い手不足」「将来の暴落・高騰リスク」など、将来の不安材料を整理しつつ、“政策によって持続可能な環境を作るしかない”という明快な方向性を示した点は高く評価できます。