「鳥たちと秋の実り」堀江明香(大阪市立自然史博物館外来研究員) ラジオ番組「マイあさ!」生き物いろいろ(NHK) を聞いて

2025年10月18日に放送されたラジオ番組 「マイあさ!」生き物いろいろ「鳥たちと秋の実り」堀江明香(大阪市立自然史博物館外来研究員)を聞きました。

1.野鳥が果実を主食とする理由
番組冒頭で語られた「日本の野鳥80種以上が果実を主食とする」という事実は、驚くべき生態的多様性を示しています。
とくに秋から冬にかけて昆虫が減少することで、ヒヨドリ、メジロ、ツグミなどが果実(液果)を頼るというのは、季節変動に適応した食性の柔軟性の表れです。
ここに見られるのは、生き物が生き延びるために環境の変化に即応するダイナミックな適応戦略です。

2. 液果と種子散布の相互関係:利他的ではなく打算的な共生
液果の果肉は、見た目には鳥たちへの「贈り物」のように見えますが、実際は植物側の「運搬のための投資」であり、鳥にとっては「燃費の良いエネルギー源」です。
ここで提示されているのは、「自然界の共生は情緒的ではなく合理的・戦略的である」という視点です。
鳥たちは質の高い果肉を選別し、植物は種子を運んでもらうための最小限の報酬として果肉を用意する。
このビジネスライクな相互依存の視点は、非常に知的で新鮮です。

3. 乾果を巡る「貯蔵と忘却」の進化戦略
後半で紹介されたドングリやクリなどの「乾果」に注目が移る点も秀逸です。
カケスやヤマガラがこれらを蓄える行動は、単なる食料確保ではなく、結果として植物にとっては「忘れられた果実が芽生える」ことにつながります。
このような「貯蔵行動を利用した繁殖戦略」は、植物が動物の習性に巧みに便乗している進化的戦術ともいえます。

4. 豊作と凶作の周期:リズムによる制御戦略
乾果を実らせる植物が、「豊作の年」と「凶作の年」を交互に繰り返すという話も、生存戦略のひとつとして重要です。
「豊作の年」に実を運んでもらい、「凶作の年」に自分を成長させる。
これは、「時間差による制御」という進化的な自己防衛策とも読み解けます。

5. 感想
この放送は、生き物たちのふるまいを通じて、私たち人間社会における「選択と最適化」「共存の戦略性」をも示唆しています。
果肉の質を見極める鳥、報酬を抑えて成果を得ようとする植物。
お互いが賢く立ち回る姿は、まるで経済行動のようでもあり、現代社会にも通じる示唆を感じさせます。

「鳥たちと秋の実り」は、自然の中に潜む「知的な戦略性」を見事に可視化し、動物と植物が互いにしたたかに生き延びる仕組みを、わかりやすくかつ深く伝える優れた解説でした。美しさの裏にあるサバイバルの論理を知ることで、秋の自然がさらに立体的に、意味深く感じられるようになります。
この番組は、自然観察をただの情緒ではなく、「関係性のダイナミズム」として捉えたい人にとって、非常に価値のある知的体験を提供してくれるものでした。