ラジオ深夜便  インタビュー 「戦場ジャーナリズムの使命」柳澤秀夫(ジャーナリスト、元NHK解説委員長)を聞いて

2025年10月16日に放送された番組 ラジオ深夜便  インタビュー 「戦場ジャーナリズムの使命」 柳澤秀夫(ジャーナリスト、元NHK解説委員長)を聞きました。

1.戦場ジャーナリズムの使命感
柳澤氏が繰り返し強調したのは、「戦争の現実を伝える」という報道の根源的使命です。
彼は自ら命の危険を冒しながら、湾岸戦争、イラク戦争などの最前線に赴き、「誰かが行かなければならない」という覚悟で取材をしてきました。
彼が石膏で歯型を取ってから戦地に向かったエピソードは、その覚悟の凄まじさを象徴しています。
また、「戦争を止める力」こそが報道だと信じており、「都合のいい情報」しか流さない政府の姿勢に対し、現地の真実を届けることが平和への唯一の道であると語る姿勢は、報道の本質を鋭く突いています。

2.「最も苦しむのは常に弱者」
戦争の結果、最も苦しむのは常に弱者(子ども、高齢者、貧困層)であり、「戦う者は安全な場所にいて、命令だけを出す」という構造に対する倫理的怒りが伝わります。
ここには、報道の対象としての“人間の痛み”を見失わない姿勢があります。

3. ドローン戦争と歯止めなき暴力の時代
柳澤氏は、ドローンや遠隔操作兵器による無人戦争についても鋭く批判。戦争は本来、「血を見ること」が抑止力になっていたが、テクノロジーの進歩がその心理的・身体的な障壁を消し去ってしまったと述べています。
これによって戦争が容易に起こせるようになり、国家による侵略のハードルが下がってしまっている現状を、技術の暴走として捉えています。

4. 外交・対話・現場主義の重要性
戦争を未然に防ぐために最も大切なものとして「外交」「対話」「フェイストゥーフェイスのコミュニケーション」を挙げています。
直接会って、相手の表情、呼吸、語気を感じながら話すことの重要性を説いており、「顔の見える関係」こそが誤解や衝突を防ぐ鍵だとしています。電話やリモートでは伝わらない「人間の機微」への鋭い洞察が光り、これは現代の“非対面コミュニケーション時代”に対する貴重な批判ともなっています。

5. 感想
柳澤氏の姿勢は、まさに「報道とは何か」という問いに対する最も誠実な実践的回答です。
ジャーナリズムが単なる情報提供や評論に留まるのではなく、「現実に起きている痛みや不正義を伝える行為」であるという信念が、力強く伝わってきました。

「誰かが現場に行かねばならない」という言葉には、責任を他人に押し付けない覚悟と倫理があります。
単なる理想論ではなく、現場に立ち続けた人だけが語れる重みがそこにはあります。

ドローンや遠隔兵器が生む「人を殺すことの容易さ」への懸念は、現代社会が見過ごしがちな重大な問題です。
技術の発達が戦争を“ゲームのように”してしまう危険性について、ジャーナリストが警鐘を鳴らす意義は極めて大きいと感じました。

柳澤氏が一貫して語っていたのは、「戦争の一番の犠牲者は誰か」ということ。
政治や軍事の力学ではなく、その陰で苦しむ人たちに寄り添い、その声を伝えることがジャーナリズムの使命であるという姿勢は、まさに人間中心の報道哲学です。

フェイストゥーフェイスで話すことの重要性を語る場面は、単に外交に限らず、我々の日常にも深く響く言葉です。
SNSや電話だけでは伝わらない「人の気配」に敏感であり続けること。報道だけでなく、人間関係そのものの本質を突いています。

このインタビューは、単なる過去の経験談ではなく、現代の報道、政治、戦争、テクノロジー、そして人間関係にまで通じる深いメッセージに満ちていました。

「戦争を止める力」こそが報道だと信じており、「都合のいい情報」しか流さない政府の姿勢に対し、現地の真実を届けることが平和への唯一の道であると語る柳澤秀夫氏の姿勢が最も深く心に残りました。