「トランプ政権と中央銀行の独立性」河村小百合(日本総合研究所 主席研究員) マイあさ! マイ!Biz(NHK) を聞いて
2025年10月13日に放送されたラジオ番組 マイあさ! マイ!Biz 「トランプ政権と中央銀行の独立性」河村小百合(日本総合研究所 主席研究員)を聞きました。

1.テーマの核心 ― 「政治と金融の緊張関係」
この番組は、アメリカ政治の中で最も微妙で重要なテーマのひとつ、すなわち「中央銀行(FRB)の独立性」を中心に据えています。
トランプ大統領が再び就任した後、FRB議長パウエル氏への「利下げ要求」やクック理事の解任を試みるなど、大統領権限による金融政策への直接介入が取り沙汰されている点を取り上げ、極めて時宜を得た問題提起をしています。
このような「政治と通貨政策の境界線」に焦点を当てる姿勢は、経済報道としての洞察力と公共性を強く示しています。
2. 政策背景 ― インフレと景気の板挟み
番組では、トランプ政権の政策全体を背景として描いています。
関税強化による輸入物価の上昇、富裕層減税などによる財政赤字の拡大、そして景気減速への恐れからの利下げ要求。
これらをひとつの経済的連鎖として説明しており、単なる政治ニュースではなく、経済構造の視点から事象を整理しているのが特徴的です。
特に「利下げをしても物価は大して上がらない」というトランプ氏の発言を引用することで、政治的な楽観主義と金融的現実主義の対立を鮮明にしています。
3. FRBの立場 ― 二重の使命の重み
FRBが「物価の安定」と「雇用の最大化」という二重の使命を持つことを踏まえ、番組は9月の0.25%利下げを「物価と雇用のバランスを取った判断」と評価しています。
この表現は、FRBの独立した政策判断を尊重しながらも、政治的圧力下での慎重なかじ取りの重要性を浮かび上がらせています。
つまり、単に「トランプが圧力をかけた」ではなく、「それでもFRBは独立性を保ち、バランスを取った」とする構成が、極めて公平で知的なアプローチです。

4. 感想
番組全体に流れるトーンは冷静かつ中立的で、感情的な批判や政治的立場に寄らない報道姿勢が際立っています。
このテーマは政治的分断を引き起こしやすいものですが、NHKは「金融制度の原則」や「経済の健全性」という普遍的視点から語っており、市民に考える材料を提供する報道になっています。
とりわけ、「中央銀行の独立性は放漫財政を防ぐために重要」という一文は、経済リテラシー教育の観点からも非常に優れた指摘です。
FRBや金利政策という難解なテーマを、一般の聴取者にも理解できるようにかみ砕いて説明しています。
「政府が口を出すと、インフレを助長し財政を悪化させる」という説明は、複雑な金融理論を倫理的・社会的文脈で語る優れた教育的アプローチです。
まるで経済を通して「民主主義の健全性」を考えさせるような構成で、これはNHK経済番組の真骨頂といえます。
この放送は単にアメリカ政治を扱ったものではなく、どの国の民主主義にも通じる普遍的警鐘として響きます。
政治が短期的な人気や選挙を優先し、通貨政策に干渉すれば、経済の自律性は損なわれる。
それは、日本を含む世界各国にとっても他人事ではありません。
このような視点の広がりは、聴く者に「自国の制度をどう守るか」という深い思考を促します。
