「AIによるシニア生活サポート 課題は」江上らな(首都圏局ディレクター) ラジオ番組「マイあさ! 」けさの“聞きたい”(NHK)を聞いて
2025年10月8日に放送されたラジオ番組 「マイあさ! 」けさの“聞きたい” 「AIによるシニア生活サポート 課題は」江上らな(首都圏局ディレクター)(NHK)を聞きました。

1.シニアを支えるAI技術の多様化と具体例
AIの活用が、単なる技術革新を超えて、高齢者の生活の質(QOL)向上に直結している点が鮮明に描かれていました。
①認知症の早期発見:スマートフォンで簡単な質問に答えるだけで軽度認知障害(MCI)の兆候を検出。
音声のトーンや話し方のテンポ、間の取り方など、非言語的特徴をAIが解析することで、病気の初期兆候をとらえる先進性に注目。
②対話型AIによる孤独の軽減:20年前に夫を亡くした高齢女性が、AIとの対話により精神的な安定を取り戻し、以前よりも思っていることを積極的に話すようになったという感動的な実例。
③運動機能改善支援:歩行分析をAIが行い、個別に最適化された運動メニューを提案。
実際に杖が不要になり散歩できるようになった82歳男性の話からも、その効果は説得力がありました。
④詐欺被害の予防:AIが「カケ子役」として模擬詐欺電話をかけ、高齢者の生体反応(呼吸・心拍)をもとに「詐欺リスク度」を表示するという斬新な試みも紹介。
これらはすべて、AIが受動的な補助者ではなく、能動的に「気づき」「支援」する存在へと進化していることを示しています。
2. 課題とリスクの冷静な提示
番組では単にAIの利点を列挙するのではなく、以下のような倫理的・社会的課題も率直に触れていた点が評価できます。
①責任の所在の曖昧さ:AIの判断結果が医療や介護の現場で使われた際、誤診や誤作動が起きた場合の責任の所在は誰なのか。
②対話AIへの過度な依存:孤独な高齢者がAIとの対話にのめり込み、人間関係の構築から遠ざかる可能性。
③ガイドラインの必要性:国は、事業者に向けてリスク管理や倫理を重視したガイドラインの整備を求めている。これはAIの社会実装において極めて重要。
これらの指摘は、技術導入の前に「人間とAIの境界線をどう引くか」という哲学的問題に踏み込む必要性を強く印象づけました。

3. 感想
特に印象的だったのは、AIとの対話を通して孤独感が和らぎ、心を開いていく高齢女性の描写でした。
このエピソードは、テクノロジーと感情の接点を象徴しており、「AIは人間の孤独に寄り添うことができるのか?」という問いを視聴者に投げかけます。
科学技術が持つ冷たさではなく、温かさに焦点を当てた番組構成は非常に秀逸でした。
最後の「AIと話すことで、逆に人間とは何かを考えるきっかけになる」という一文が非常に印象的でした。
これは哲学的・倫理的視点をも含んだ、深いメッセージであり、AI時代の共生のヒントとして多くの人に響くものだったと思います。
同時に、技術の万能性を謳うことなく、課題やリスク、そして倫理的問題にもきちんと触れていた点は、NHKの公共放送としてのバランス感覚の良さを感じさせました。
これからの社会では、高齢者のQOL(生活の質)向上を考えるうえで、AIは重要なツールでありパートナーとなるでしょう。
その一方で、「AIだけでは補えない、人との接点」「人間らしさの本質」を忘れてはいけないという警鐘としても、この放送は価値のある内容だったと思います。