「“対外純資産”日本の首位陥落 その意味とは」水野和夫(経済学者)   ラジオ番組「マイあさ!」マイ!Bizを聞いて

2025年10月10日に放送されたラジオ番組 「マイあさ!」マイ!Biz・経済展望「“対外純資産”日本の首位陥落 その意味とは」水野和夫(経済学者)を聞きました。

1.対外純資産とは何か
本放送では「対外純資産」の基本定義を丁寧に紹介していました。
国が海外に保有する資産から、負債を差し引いたもの。
これは一国の「経済的体力」や「海外における影響力」を測るうえで極めて重要な指標です。
30年以上にわたり日本が世界首位を維持していた事実は、その地道な経常収支黒字の積み上げの成果といえます。

2. ドイツに抜かれた要因
日本がドイツに首位を譲った背景としては、単なる資産減少ではなく、
為替レートの円安要因
対外負債の増加
外国資本による日本不動産の取得
といった「外部的・市場要因」が重なったことが指摘されていました。
これは構造的問題というよりは、循環的な現象とも読めるため、過度な悲観は不要というメッセージが暗に込められていました。

3. 経常収支の構造変化
かつての日本は「貿易黒字国」として知られましたが、現在では、
貿易収支は赤字
所得収支(海外投資の利益)で黒字を維持
という構図に変わりつつあります。
これは成熟国家としてのステージの変化とも解釈でき、先進国がしばしばたどる経路と重なります。

4. 懸念される今後のシナリオ
今後も貿易赤字が続けば、
海外投資リターンだけでは経常黒字維持が困難になる
経済成長にブレーキがかかる
賃金が上がらず、消費低迷、物価上昇が重なる
というスタグフレーション的なリスクが指摘されていました。
これは非常に現実的かつ警鐘を鳴らす重要な視点です。

5.感想
本放送は、専門的になりがちな「国際収支」や「為替の影響」などの話題を、わかりやすく整理しながら伝えており、まさに「耳で聴く経済講座」のようでした。難解な用語を避けつつ、数字や現象の因果関係を丁寧にたどる構成は非常に秀逸です。

単に「首位陥落」というセンセーショナルな話題に留まらず、
歴史的背景(60年黒字)
国際比較(ドイツとの違い)
内外要因の分類(為替、資産価格、負債)
など、冷静な分析に終始していたことは、公共放送ならではの誠実な姿勢といえます。

「今すぐ何かが破綻するわけではないが、構造的には課題が積み重なっている」という、中長期的なリスクの指摘が実に効果的でした。
希望と警鐘をバランスよく織り交ぜるナラティブが好印象でした。

この放送を聴いて、日本が「経常黒字国」であることの意味が、時代とともに大きく変わってきたのだと感じました。
かつては「物を作って輸出する力」だったのが、今では「蓄積された海外資産の運用力」に変化している。その構造変化を肌で実感することができました。

一方で、日本が今なお16年連続で対外純資産を増加させている事実も、確かな実力の証し。
悲観でも楽観でもなく、日本の足元を冷静に見つめ直すための良質な材料を提供してくれる内容でした。

この回は、「経済ニュースを深く理解したいが、新聞や専門書は難しすぎる」と感じる層にとって、極めて有益な放送でした。
わかりやすさ・正確さ・バランス感覚を兼ね備えた構成で、耳で“知る”経済報道の良質な手本といえる回です。
今後もこうしたテーマに継続的に光を当ててほしいと強く感じました。