「マンション高騰・ローン」井村丈思(解説委員) ラジオ番組「マイあさ!」コトバ経済 (NHK) を聞いて
2025年10月3日に放送されたラジオ番組 マイあさ! コトバ経済 「マンション高騰・ローン」井村丈思(解説委員) を聞きました。

1.マンション高騰の背景構造
番組が示した「2010年=100 → 現在=216.8」という価格指数は、日本の住宅市場の二重構造を明瞭に示しています。
一戸建ての伸び率が20%台にとどまる一方、マンションが2倍以上という差は、「都市集中」と「土地の希少価値の上昇」という経済原理を反映しています。
特に東京23区の新築価格が平均1億3,000万円台というのは、バブル期(1980年代末)を超える象徴的データであり、
もはや「庶民の住まい」というより「資産・投資商品」としての性格を帯びていることが分かります。
この「住宅の資産化」は、番組でも触れられたように、富裕層や外国人投資家が円安の割安感を背景に参入している点とも密接に結びつきます。
つまり、日本の都市住宅市場は国内の実需(住むための需要)だけでなく、国際金融資本の流入によっても動いている「グローバル資産市場」化しているのです。
2. 供給サイドの制約と価格上昇の連鎖
供給側の要因として番組が挙げた資材・人件費の上昇、「駅近」限定開発の集中化、分譲数の伸び悩みは、非常に的確な分析です。
建設コストの上昇と土地選定の限定化が「新築供給不足」を生み、結果的に中古マンション市場まで波及しているという構造的な連鎖が描かれています。
とくに「駅近物件の希少性」が、価格上昇を正当化する「ストーリー」として市場心理に作用している点が興味深いです。
これは単なる需給バランスではなく、都市生活者の「価値観の変化」──利便性・安全性・資産性を重視するライフスタイルの定着──にも根ざしています。
3. ローン制度の変化と家計リスク
番組後半の焦点である「50年ローン」「ペアローン」の普及は、所得停滞と価格高騰のはざまで住宅取得を試みる若年層・中堅層の苦心を示しています。
フラット50の申込が過去最高(昨年1900件→今年上半期2600件)
ペアローンの増加
これらは「月々の負担を軽く見せる」制度的工夫ですが、番組が指摘するように「利息総額増」「片方の収入減によるリスク増」は重大な課題です。
つまり、短期的な心理的安心の裏に、長期的な負担の不透明化が潜んでいます。
それを「頭金」や「繰り上げ返済」で補うという提案は現実的であり、消費者教育的な観点でも非常にバランスのとれた内容でした。

4. 都心と周辺地域の二極化
番組は最後に「都心は上昇継続の可能性」「周辺では頭打ち」とまとめています。
この指摘は、地価上昇の“波の減衰”を示すと同時に、今後の都市構造の変化を予見しています。
つまり、超富裕層による都心集中と、中間層以下の郊外分散という「住宅の階層化」が一層進む可能性を暗示しています。
5.感想
統計(価格指数やローン件数)と生活者の実感(共働き夫婦、通勤利便性、育休リスク)を一つの流れで説明しており、経済報道として非常に完成度が高い。
単なる「値上がりニュース」ではなく、人々の暮らし方の変化にまで踏み込んでいます。
「マンション」「ローン」という日常語を軸に、経済の抽象的概念(資産化、流動性、負債の長期化)をわかりやすく語る構成が秀逸でした。
「コトバ経済」というタイトルにふさわしい、「言葉のリアリティ」と「社会的意味」を結びつける手腕です。
最後に“上昇は続く一方で頭打ちの兆し”とまとめたことで、単なる悲観・楽観に終わらず、聴き手が自分の立場で考える余地を残している。
この「余白のある語り」はNHK経済番組の中でも質の高い構成といえます。
住宅が「生活の場」から「投資商品」へと変わる流れの中で、番組は“人間の暮らし”という視点を見失わずに伝えている点に好感を持ちました。
「駅近の便利さ」「共働きの努力」「ローンの工夫」──どれも現代日本の都市生活者が直面するリアルな課題です。
特に印象的だったのは、50年ローンという「世代を超える借金」の存在。
これは単なる金融商品ではなく、“人生の時間”そのものをどう扱うかという哲学的問いでもあります。
その意味で、番組は経済と人間の関係を深く考えさせる内容でした。