「株高の謎 意識の持ち方」  ラジオ番組「マイあさ!」(NHK) を聞いて

2025年10月2日に放送されたラジオ番組 「マイあさ!」 マイ!Biz 「株高の謎 意識の持ち方」を聞きました。

1.株高の「二重構造」的要因:アメリカ依存と国内インフレ
番組では、株高の主な要因を2つに整理しています:
①アメリカ市場の好調: 日本市場はもはや「世界の主要市場」ではなく、アメリカ市場と連動する「アジアのローカル市場」と化しているという認識は鋭く、実情を反映しています。
②日本国内のインフレ: 景気が良くなくても株価が上がるという「実体経済と乖離した株高」の説明に、物価上昇と低金利継続が結びついている構図を見事に描いています。

アメリカ市場に依存する構造と国内の金融政策との相乗効果を俯瞰し、表層的な「株高=景気良好」とは異なる本質的な分析がなされている点は評価できます。

2. 賃金と物価の非連動性への懸念
番組では繰り返し「賃金上昇が伴っていない」という視点が語られており、次のような指摘がありました:
物価・株・不動産は上がっても、賃金が上がらなければ庶民は景気回復を実感できない。
結果として、資産を持つ者と持たざる者の格差拡大に繋がる。

この視点は非常に重要です。
金融市場の動向と生活者の実感のギャップを埋める視座を持っており、単なる経済ニュースではなく、「暮らしとの接点」を考える番組の姿勢が伝わります。

3. 金融政策の役割と限界
番組では、日銀の大規模緩和が長期化している構図を指摘し、株価や不動産価格の上昇が「金融要因」によって支えられていることを明確にしています。
しかしそれは、「賃金の上昇を伴わないインフレ」であり、実体経済の改善とは乖離している。
この構図は、「見かけ上の景気拡大」と「生活実感とのズレ」という現代日本経済の病理を鋭く突いています。

4. 投資推奨政策と“自己責任”社会
政府がNISAなどを通じて「投資を推奨」している背景には、年金制度の持続可能性への不安があると番組は指摘します。
ここでは、政策の裏にある「国家の責任から個人への転嫁」が見事に整理されています。
また、「余裕資金の範囲で長期・積立・低リスク」という助言は、短期投機ではなく持続的資産形成という方向性を支持する堅実なメッセージです。

5. 感想
経済報道でありながら、「生活者の感覚」と「株価の論理」のギャップに寄り添い、聞き手の納得感を重視している点が秀逸です。
また、「日米の連動性」「投資と年金制度」「格差の拡大」など、広範なテーマをコンパクトに整理しており、情報の選定と伝達のバランスが非常に良い構成となっています。
語り口も断定的ではなく、可能性や注意点に触れることで、思考を促すつくりとなっていました。

この回を通じて、「株価が上がっている=生活が良くなる」という単純な連想がいかに危ういかを改めて実感しました。
特に「賃金が上がらなければ意味がない」という繰り返しの指摘には強い共感を覚えます。

一方で、政府の投資推奨の裏にある「年金不安」のメッセージにも触れられており、政策の読み解き方も学べる良い機会になりました。
投資は「余裕資金で、時間をかけて」という助言は、未来の生活設計を考える上で冷静かつ実践的な視点だと感じます。