マイあさ! 著者からの手紙 「文芸誌 GOATの編集部より」(NHK) を聞いて
2025年9月28日に放送されたラジオ番組 マイあさ! 著者からの手紙 「文芸誌 GOATの編集部より」を聞きました。

1.発行部数と存在感
創刊号・第二号ともに7万部を超えるというのは、現代の文芸誌としては破格の数字です。
しかも「八刷」「六刷」と重版を繰り返していることは、市場の需要と注目度の高さを裏づけています。
単発の話題性ではなく、安定した読者層の形成に向かっている証拠ですね。
2. 価格戦略と物質性
510円という値段設定は、まさに「破格」。
通常500ページ級の豪華造本なら千円を軽く超えるはずなのに、あえて低価格で提供する姿勢は「まず読者を獲得し、コミュニティを形成する」という明確なビジョンを感じます。
紙やデザインへの徹底したこだわりも、“本を持つ喜び”を最大化しようとする戦略として一貫しています。
3. 出版の形態と多様性
紙だけでなく、オンライン版、点字やテキスト版、オーディオブックまで展開している点は「インクルーシブな文芸誌」と言えます。
読者を限定せず、多様なアクセシビリティに配慮する姿勢は、これからの出版モデルとして先進的であり、社会的意義も大きいです。
4. コンテンツの方向性
読み切り中心・ジャンル横断という編集方針は、従来の「純文学vsエンタメ」という二項対立を越えて、「面白い」という一点で結集させるもの。
しかもミステリーやSFまで取り込む柔軟さがあり、従来の文芸誌の“硬さ”を取り払っているところが新鮮です。
小説を「もっとカジュアルに」と位置づけた点は、読書時間の奪い合いが激しい時代に適応した戦略ですね。
5. デザインとブランド形成
特殊紙や仕掛けのある装丁は、本を「読む」だけでなく「体験する」ものに変えています。
広告をほとんど入れずに“おしゃれ”を全面に押し出す姿勢は、モノとしての価値をブランド化しようという意志の表れであり、雑誌を超えたカルチャーアイコンになり得ます。

6. 感想
GOATは、「文芸誌」という枠を再定義していると言えます。
出版不況の中で紙媒体を敢えて選び、しかも豪華に、かつ低価格で提供する逆説的戦略。
さらにジャンル横断の編集方針と、多様な出版形態での展開。
これは「文学を生き残らせる」のではなく、「文学を再び生活に組み込む」という発想の転換です。
批評的に見ても、ビジネス・文化・社会性の三軸でバランスを取った優れたモデルであり、単なる雑誌以上の存在感を放っています。
聞いていて、「これはもう雑誌というより運動体だな」と感じました。
GOATは小説家と読者が一緒に歩むコミュニティを志向し、ゴールを定めず常に変革する姿勢を持つ。まるでフェスティバルのように、半年ごとに“新しい文芸の実験”を提示していく場です。
価格の安さに惹かれて手に取った人が、分厚い冊子の重みとデザインの凝縮感に驚き、ページを開けば多彩なジャンルの小説が待っている──これって、ちょっとした“文化体験”そのものですよね。
「文芸って堅いものじゃない、楽しいんだ」と思わせてくれる点で、未来の読書文化を拓く意欲的な試みだと感じました。